2024 Autumn千葉県御宿町 旅のはなしvol.1 恐怖の臨時休業男編
夏に旅行で行った千葉県の御宿町が気に入り、御宿の民宿マニアになりたいと思っている。
御宿の民宿は値段がリーズナブルな上に料理が最高だ。
これでもかっていう程に海の幸を堪能させてくれる。夏に泊まった宿は、夏は安いがオフシーズンは高くなるというちょっと変わったスタイル。
どうやら秋〜冬にかけては、もっと料理を堪能させてくれるみたいだ。夏でも大満足だったが、それ以外のシーズンでも行ってみたいと思っていた。
わたしのパートナーは無類の海老好きで、御宿で伊勢海老祭りがあることを知ると、興奮気味にメッセージで知らせてくれた。
10月6日に伊勢海老掴み取りや、伊勢海老汁の無料配布などのビッグイベントがあるとのこと。
秋生まれのパートナーの誕生日に、わたしは旅行をプレゼントすることにした。
冬生まれのわたしの誕生日には、石川県の旅をプレゼントしてくれたから。
鉄道好きでもある彼は、旅で乗りたい電車とその時刻表を組み立て、綿密に旅の計画を立ててくれた。そしてまた興奮気味にそのスケジュールを披露してくれた。好きな海老と電車だなんて最高の誕生日になるに違いない。そう胸を高鳴らせてわたしたちは旅に出る。
そう、この高鳴りが暗転するとも知らずに。
ー千葉県 小湊鉄道といすみ鉄道でゆく御宿の旅へー
新宿から特急に乗って五井駅へ向うと、1時間ちょっとで到着した。
五井駅にはローカルなお弁当売りのおばちゃんがいるらしい。どんな弁当が売られているのか、その弁当を朝食にするのを楽しみにしていた。
そのあとは小湊鉄道に揺られ養老渓谷駅を目指し、日帰り温泉までハイキングをする。
温泉に入って昼食を摂り、彼はそこで猪鍋を食べ、わたしは稚鮎の唐揚げを食べることを楽しみにしていた。
その後は、いすみ鉄道に乗り秘境駅と呼ばれる久我原駅にて無心になりコーヒーを飲むのだ。
?!五井駅に着くと、ネットで調べていたお弁当やさんがない。
彼は落胆した。「5日、6日は臨時休業します」そう張り紙がされていた。
「はぁ。食べたかった。それならコンビニでオニギリ買っていこう!」そう言ったので「そうだね。」と返した。コンビニに行く前に切符を発券することにした。
?!「いすみ鉄道運休!?」
2日前に脱線事故があり運休とのこと。その場でニュースを調べると怪我人はいなかったようで安心したが、復旧の目処は立っていないようだった。
鉄道ファンの彼は「あれだけ事前に調べてたのに。。どうして脱線事故があったことに気が付かなかったのだろう。もう崩れ落ちて泣きそうだ。」そう言った。
彼はTVを観る習慣がなく、家にはTVがない。経済のニュースなどは毎朝ネットで見ているのだろうが、ネットニュースのトップに上がって来なければ知る術はないこともある。
Xでいすみ鉄道を調べていればまた違ったかもしれないが、不運というしかない。
いすみ鉄道もわたしたちも。
?!ハイキング、温泉、昼食、秘境駅の工程がここで一気に崩れ去った。
早い復旧を祈り、我々はここを後にするしかなくなった。
彼はもうこの後の予定など考えられないほど落胆し、わたしはどうしたものかと思って「立ち食い蕎麦に行ってみようか!」と提案した。昨日、立ち食い蕎麦の動画を観て食べたいと言っていたから。
だが彼が好きそうな立ち食い蕎麦屋が見つからず、とりあえず上総一ノ宮駅まで電車で向かうことにした。
「また復旧したら行けばいいよ!」
「紅葉の季節を待ってトロッコにも乗ろう!」
そうは声をかけてみたものの、人は落ち込んでいる時に、そのような声掛けですぐ切り替えられたりするはずがない。
よし、言うだけ慰めたんだ。あとは放っておこう。
1時間弱、ガタゴトと響く電車内に、時々ため息が漏れてくるのを聞き、静寂の電車に揺られた。
彼が飲食店を探す時、その店の歴史を重んじている。
店の雰囲気や、扱う酒の種類、メニュー表の感じ。仕事であらゆる地方にも行き、色々な店に行っているので舌も肥えている。
わたしたちが初めてデートをしたのは新宿だった。
彼は真剣な顔をして店を探し、入ったのは初デートには向かないような和風の居酒屋だった。
彼は店に入ると、その居酒屋の古い柱に想いを馳せ感動していた。「この場所でずっと昔からこうして酒が交わされ、酒を飲んだ人々がいて、この柱がずっとその時からあるんだ。」と染み染みと語っていた。
わたしはとても変わった人だな。と思って「そうだね。」と聞いていた。
そこから程なくして立ち飲み屋に連れて行ってくれたり、少し汚い中華屋などにも行った。
店選びでは外したことはなく、入る度に「美味しい!」と感動する。
お嬢さまぶる訳ではないが、わたしは彼と付き合うまで一度も立ち飲み屋に行ったことが無かったし、汚い中華屋に行くなら、中華レストランを選んだ。店の選択肢が増えて、人生の楽しみの幅はだいぶ広がった。だから今じゃ彼の好みの7割はわかっているはずだ。
静寂の電車内にて、上総一ノ宮駅で絶対に彼の機嫌が直るであろう店を、ネットで探し当てていた。
上総一ノ宮駅に着くと、彼はまだ少し落胆した様子で「これからどこにいこうか。」と言った。
「良いところを見つけたから今から行くよ!」と返した。
彼は半信半疑だった。
店のサイトを見せると、落胆してから以来の笑顔を見せた。「おっ笑いましたね。」と揶揄うと、「でもまたどうせやってないとかいうオチかもしれないよ。」と拗ねた。
店はちゃんと開いてくれていた。
タカラ屋さんという海鮮定食屋。定食は500円からと大変リーズナブルで、地魚をメインに扱っている。昭和を感じさせる佇まいも良い。店には芸能人のサインがたくさん飾ってあった。
「良い店だなぁ。」と彼はいつもの彼に戻った。
機嫌が良くなった彼は、「観光案内所にレンタサイクルがあるから、時間があったらサイクリングしよう。」と言った。「海沿いを走ったら気持ちがいいね!」と賛成した。
?!レンタサイクルには、免許証などの身分証明書が必要とのことだが彼はいつも使っているリュックから、雨に備え防水用のリュックに入れ替えていたので、カード入れ一式を忘れてきたみたいだ。
「良かれと思ってしたことが裏目に出る日だ。」そう言って、また落胆し始める。
まずい!と思い、「わたし充電器忘れたから100均に行きたい」と言った。
「100均だって、また閉まっているんじゃないの」
「はいはい。わかったわかった!」
100均もどうにか開いていてくれて、充電器とファブリーズ的なスプレーを購入した。
そして、とりあえず御宿駅に向かうことにした。
ツキのなさはここで終わらないのだ。
15時のチェックインの時間まで2時間程あったので、御宿に着いてから、我々は夏に来た時に入りたかった喫茶店に行くことにした。
?!「長らくのご愛顧誠にありがとうございました。」
休業どころか閉店と来た。
?!辺りに店はあまり無く、やっと見つけたイタリアンの店は、ランチはやってるものの、アラカルトはランチタイムにはなく断念。
ここまで来ると彼はこう言い出した。
「俺はもう期待しないよ。。。
俺なんかもう恐怖の臨時休業男なんだ。。」
思わずそのネーミングに吹いてしまった。
〝恐怖の臨時休業男〟ってひどいネーミングだ。
そして恐怖の臨時休業男と周る先は、まだまだ災難が続いた。
日帰り温泉に行こうとすれば、15時からの営業。
今日から伊勢海老祭りに行っちゃおうかと行けば、〝台風の影響で本日土曜日は中止〟ときた。
極め付けは、夏に勝浦に行く時に乗ったバスは廃線になっていた。
ここまでくると「まじかっ!」と笑えてきた。
「もう本当にいやだ。」と消え入りそうなか細い声の彼の横で、「不幸ループ持ってるわぁ」と笑いが止まらなくなった。
こうなればもう、スーパーで夜に飲むお酒の買い物をして、駅から徒歩20分の宿に向かおう。
海岸沿いをずっと歩いて、たまに飲むヨーグルトを飲んで時間を潰した。
重いお酒を持って歩いてくれた彼に「重いでしょう?かわるよ?腕がちぎれちゃう。」と言えば、「俺の腕なんかちぎれちゃってもいいんだ。」と自暴自棄に。「ザリガニみたいだね。」と言って笑った。
やっと宿に着いたのは15時5分前。
快くチェックインをさせてくれた。
するとすぐにお風呂のお湯を溜めてくれ、旅の疲れを癒した。中庭には今日乗れなかった鉄道の絵が飾ってあり、お湯と一緒に今日の厄は落とした。
18時からの夕食にも舌鼓を打ち、酔いがまわる頃にはすっかり上機嫌になっていた。
眠る頃に、わたしは今日のないない備忘録を取った。
そのメモをふたりで見てゲラゲラ笑った。
「恐怖の臨時休業男やばすぎっ!!!」
明日は本命の伊勢海老祭りだ。
中止になったらなったで、それもまた面白いじゃないか。
そう笑って眠りについた。
つづく
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旅と食べることが大好きです。