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『ミナを着て旅に出よう』 | 自分の感覚を信じることの大切さ


2003年に出版、2014年に文庫化されたデザイナー皆川明さんの一作目の著書。


怪我によって陸上選手になるという夢を断念し、魚市場で働きながら minä perhonen(設立当初は minä というブランド名)を立ち上げるまでの経緯や、デザインや服・ものづくりへの考え方、ブランドに対する思い、旅の魅力などを綴った6編のエッセイにより構成されている。



私がこの本をはじめて手に取ったのは2022年のこと。再放送された「プロフェッショナル仕事の流儀」を視聴して感銘を受け、もっと皆川さんの言葉にふれたいと思ったのだ。


このたび再読してみると、いまフリーの音楽家として自身の活動をいちからつくっていこうとしている私にとって「かくあらねば」と思う考え方・ものの見方であふれていることに気がつく。



僕は不器用だからこそ、あまり早く服の作り方を習得するのはどこか怖いという気持ちがあって、極端に言えば、10年後に洋服が作れるようになっていればいいかなっていうくらいの気持ちでやっていました。

『ミナを着て旅に出よう』p.13


長く続けること。
自分をよく知り、ひとと較べないこと。



デザインや芸術において、なにがいちばん大切なことかというと、見た目のきれいなフォルムのなかにその人でなければ生み出せない美しさがあることなんですね。

同上 p.87

そこに不可視な「なに」を込めるか。



僕はいつもどんなことに対しても、本流に対して違う角度はないかを探しているんだと思います。それはひねくれて斜に構えているということではなくて、習慣になっていることや、決まり事のなかに埋もれてしまっていることのなかにこそ意外と大事なことがあって、それを見落としているんじゃないかと思うからなんです。

同上 p.37


皆川さんが本書において一貫して述べておられるのは、ご自身の感覚にどこまでも忠実に決断するその思考プロセスだと思う。


自分の感覚こそが、一つの確かな羅針盤なのだ。



私はなかなか皆川さんのようには考えられなくて、いつも不恰好に七転八倒している20代を過ごしたけれども、なんとか続けてきたからだろうか、いまようやく自分自身の表現したいものが具体的になりつつある。


そしてそれは、おっかなびっくり自分の感覚を頼りにしてみたときに初めてみえてきたものだった。



「このまま、このまま」

やさしく、しかし力強く背中を押してもらったように感じた。



minä perhonen というブランドに興味があるひとだけでなく、自分の道を歩もうとするひとにもおすすめの一冊。




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