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私を支配する言葉
さりげない誰かからの一言や、本の中の一文に支配されてしまうことがある。それは支配し続けることもあれば、力が弱まることもあるので、きっとその時不安に思っていることが、その言葉によって確信を得たようになっているのかなと思う。
これまでずっと縛られ続けてきた言葉の1つが、村上春樹の短編集「東京忌憚集」に出てくる、下のフレーズだ。
「男が一生に出会う中で、本当に意味を持つ女は三人しかいない。それより多くもないし、少なくもない」
"男"を"異性"と言い換えて、私が一生に出会う中で、本当に意味を持つ人は三人しかいないのだと、学生時代はずっと思っていた。どの人が意味を持つ人なのか。もうすでに出会っているのか。二人まではすぐに思い浮かぶのだけれど、最後の一人はまだいない。いつ出会うのか、どの人がそうなのかをぼんやり頭の中で考えていた。数年前の話だ。
最近は「本当に」意味をもつかどうかじゃなくて、その時その時に「良い出会いだったな」と思えればそれでいいんじゃないかと思い始め、意味を持つ人カウントはすっかりおさまった。"出会うこと"が大事だった学生時代から、"出会った人と素敵な時間を過ごすこと"に重心が傾いていったのだろう。
けれど、最近は違う言葉が、私の脳を支配している。鏡を見るたび、自分の写真を眺めるたびに、前職の人から言われた言葉を思い出す。
*
その人は母と同じ年齢で、私より1つ上の娘がいる。お洒落で、「マダム」という言葉が似合う素敵な女性だ。どっしりと構えたその様子に憧れさえも感じる。
その彼女がある日、私に呪いをかけてきた。事件発生は飲み会に向かう途中。「素敵なスカートですね」と、前に派手なフリルのついたタイトスカートを見て話しかけたから起こった。
「何年も前のスカートで、一時期全然履けなくなっちゃって。最近になってやっと入るようになったのよ。昔はこのスカート、ブカブカだったのに」
ビンテージもののスカートを指してそんな話をする彼女。彼女に限らず"若い時はやせてた"理論は最近よく聞くようになった。彼女は当時続けて、こんな風に念を押してきたのだ。
「私もあなたくらいの頃はあなたと同じ体型しててね、絶対太らないと思ってたのよ。でも安心しちゃダメね。あなたも絶対太るわよ」
当時は聞き流していたこの言葉が、1日1日と年を重ねるごとに呪縛として私にのしかかってきている。
3年前に引っ越してから、体重が5キロほど増えている。人によってはたった5キロ?と思うかもしれないけれど、一時期は逆ダイエットで体重を増やそうとしていたほど、これまで全く変わらなかった体重が増えている。これは絶対身体に異変が起こっているはずだ。
写真に写った、パンパンにはれた顔を見るたびに、「いつからこうなったんだろう……」「もう戻らないのかな」と頭を悩ませ始めた。もしかしたら、歳を経るに連れて新陳代謝がにぶってきたのかもしれない…!
今は、なんとかスッキリ見えるように必死にもがいている。二重あごはストレートネックが原因でなると聞いたので、改善するための枕も買った。ピラティスを始めたのも体重がきっかけだし、GW明けはファスティングにも挑戦するつもりだ。
これまでの自分に戻ろうと必死で頑張るたびにあの言葉が私に呪いかかってくる。
「私もあなたくらいの頃はあなたと同じ体型しててね、絶対太らないと思ってたのよ。でも安心しちゃダメね。あなたも絶対太るわよ」
果たして私は、過去の状態に戻れるのだろうか。それとも彼女と同じように、若くて細い女の子を見てはそんなふうに忠告するようになるのだろうか。
去年の毎日note
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