「なんで」に答えを求めていないのね
ぱちん、と頭を叩く音が、夢の国に響いた。4、5歳くらいの子どもに対し、親が手をあげた音だ。
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「〇〇ちゃん、こっち向いて」と一生懸命声をかける母親に対して、2人の子どもがなかなか向かなかった。子どもにはイベントのTシャツを着させて、可愛いデコレーションの前に座らせている。親の手にはカメラ。ミラーレスか一眼の、ちょっとしっかりしたカメラのファインダーを覗いていた。せっかく来た思い出に、2人の可愛い写真を撮ろうと必死だったのだ。
けれど、なかなかちゃんとレンズを見ない2人。特に1人の男の子は途中で咳きこんでしまったり、母親の後ろの景色が気になって全然集中できないようだった。
多分5分以上は必死に格闘していた気がする。なぜそこまで見ていたかというと、取材で来ていたためそのシーンのカットを撮影したかったから。
すぐに終わるだろうと思っていた子どもの記念撮影は長丁場になり、取材で使いたい人たちも私のほかに5、6人が待機するようになってしまった。男の子は、母親の後ろに待つ大きな機材を持った人たちに気を取られ、ぜんぜんカメラを見なくなってしまったのだった。
ぱちん、と頭を叩く音が、夢の国に響いた。「なんでカメラを見ないのよ」と、母親が怒った。長かった撮影会は、カメラ目線が取れないままに終了してしまったようだ。
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「なんでカメラを見ないのよ」と言った母親は、どうして子どもが見てくれないのか想像したのかな、と思いを馳せる。まっすぐに後ろを見る子どもの目を見て、「何見てるの?」と同じ方向を向いたらきっと、取材班が今か今かと待っている光景を目の当たりにしただろう。
子どもは何も言わなかったけれど、たぶんその時、何をどう言っていいのかわからなかったのかもしれない。今自分が見ている光景が、どんな状況を表しているのか、まだ整理がつかない年齢だと思う。取材班が漂わせる雰囲気を感じ取って、それでも誰に何を伝えていいのかわからなくて、ぼんやり眺めてしまったなんてことはきっとあり得る話なのかもしれない。
相手の行動の意図が読めない時ほどイライラしてしまいがちだけど、やっぱりイライラを押し付けるのではなくて、行為の意図を考えることを私はしたいなぁ。相手のことを大切に思うのであればなおさら、まずは聞くことから始めたい。
日も傾いてきた頃、ポップなデコレーションと笑顔いっぱいのゲストに囲まれて、小さくおこったこの出来事を電車の中で思い返した。
去年の毎日note
このMちゃんが戻ってきてくれて、今も大好きな相談相手です。
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