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開けたくない小包

家を出る時、玄関先に小包がひとつ届いていた。同じフロアに住む同居人のAちゃんの名前が書いてある。差出人は男の人。あぁ、送ってきてくれたんだ、と思った。

1か月くらい前、Aちゃんがひどく疲れた顔をしてリビングに来た。普段当たり障りのない会話しかしていないのに、あまりにも暗い表情だったので「何かあったの?」と聞いた。「いや、ちょっと……」と言ったまま黙るAちゃん。その時は何も言わなかったけれど、後日聞くと彼氏の浮気を見つけてしまったのだという。

「一緒にいても、また他の人と連絡とりあっているんじゃないかとか、嫌なことばかり考えて信頼できなくなってる」。スマホに目を落とすAちゃん。大好きだったんだけどな、とぽつりつぶやいた。

惰性でこのまま付き合いながら、ほかにいい人見つける! と言っていたにも関わらず、つい数日前にリビングで会った時は「別れた」と報告を受けた。

「͡コテとか化粧品とか、彼の家に置きっぱなしのは捨てられるんだろうな~」と言い、最後に「他の女に使われなければ、別にいいけど」と付け足す。言い終わるとまたうつむいてスマホを覗き始めた。

この小包にはきっと、Aちゃんが残したコテや化粧品が入っている。捨てられることもなく、別の女に使われることもなく、そして本当は、Aちゃんにとって家で使うつもりじゃなかった品物が、早朝の宅配便で届けられたのだ。名前を見た瞬間2人の楽しそうな思い出を勝手に想像して、どうかAちゃんが何も考えずにこの小包を開けられたらいいなと思った。


夜遅くに帰ってくると、小包は未だに玄関先に置いてあった。けれどAちゃんは部屋にいるみたいだ。気づいてもっていかなかったのか、それとも気づかなかったのか、または、今日は家から一歩も出ていないのかーー。

できれば後者2つのどちらかだといいな、と思う。


去年の毎日note


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もりやみほ
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