第1回 人はなぜ本を返さないのか?文学賞 応募作品
プチ文壇バー 月に吠える/『第1回 人はなぜ本を返さないのか?文学賞』に応募した作品。3日3晩寝ないで執筆をしたのですが、残念ながら審査に外れてしまったのでこちらのサイトにUPしておきます。シクシク(T-T)
というか、そもそもこの賞の募集要項(作品の内容など)を間違えた気がしてならない。受賞作品見て「え…?」ってなった。ああいう摩訶不思議というか、ちょっとエキゾチックなのがウケるのか??主旨に沿って本を返さない人の話的なのを書いたのだが…なんか思ってたのと違った(--;)まァこういう事もあるさ、と気を取り直します 多くの人が最後までこの小説を読んで頂ければ幸いです(*^-^*)
ああ、またやってしまった。心の中でそう小さく溜息を吐く。
葉書に印字された『貸出本 延滞のお知らせ』。
この葉書が家に来るのはこれで3回目だ。
来る度に気を付けようと思うのだが、気付けば同じことを繰り返している。
「あんた!この葉書家に来るの何回目よ。
本は借りないようにってあれほど言ったじゃないのッ!」
リビングで料理をしていた母が声を荒げてそう叫んだ。
分かってはいる。期限内に返すよう心掛けてはいるが、
ふっと気が緩んだ時に同じ過ちを繰り返してしまうのだった。
「ごめん、母さん。次回からは気を付けるよ」
俺がそう言って同じ過ちを繰り返すことを母親は知っている。
知っているからこそ尚、やかましく言うのだろう。
しかし仕事で疲れて帰ってきた所為か、つい返事がぶっきらぼうなものになってしまう。
「誰も予約してないんだし良いじゃん。
重大な罪に問われるような事でもないしさ」
ああ、なんて身勝手な言い分なのだろうと我ながら呆れる。
確かに、これは犯罪になるような事ではない。
だけど、自分のした事で図書館の人は困り果てているだろう。
延滞している人がいないか調べ、該当者が居たら葉書で住所と催促の手紙を書いて送る。
今は機械化が進んでいて、そこまで手間がかかるわけでも無さそうだが、
それでも大変な作業のはずだ。
(あー、何で延滞しちゃうんだろう…)
傍に置いてある葉書を見遣り、同じ過ちを繰り返す原因についてぼんやり考えた。本を借りることに対する責任感がないからか?
いや、違う。本を借りる時は『期限の日には必ず本を返すようにしよう』
そう心の中でそう誓っている。
それがいつの間にか返すのが面倒になって、気付けばこの葉書と対面しているのだ。
「ねぇ母さん。本の延滞はどうして起きるんだと思う?」
「簡単な話。延滞してもペナルティーが無いからよ。ホラ、DVDレンタルのお店なんかは延滞するとお金がかかるでしょう。携帯の料金だってずっと払って無かったら車のローンが組めなくなったり大変な事になるじゃない。
図書館の貸し出しにはね、そういった厳しいペナルティーがないのよ」
成程、母親の言う通りだと思った。
例え図書館の本を延滞したとしてもそこまでのペナルティーはない。
せいぜい、そこの図書館の本がまた借りられなくなる位のものだ。
もし本の延滞に重大な罰則が設けられていたら、大急ぎで本を返しに行くに違いない。
「じゃあ、『本を延滞したらその人はクレジットカードが作れなくなる』とか、そんな罰則を設ければ良いんだ」
「簡単に言うけどアンタ、そうなったら一番肝を冷やすのは自分自身だって解っているかい」
解ってるよ、と口を尖らせ傍にある葉書を見た。
図書館で本を借りて延滞する人や返さない人が問題になっているし、
そのうち本当にそんな罰則が科せられるようになったとしてもおかしくはない。
「そうなったらどうしよう、母さん」
「あたしに聞くんじゃないよ。
とりあえずま、社会人のケジメとして本はちゃんと返すことだね」
ふんっと鼻を鳴らして母はそう言った。その言葉はご最も。
ペナルティーの有る無しに関わらず、大人として、社会で働く一員として世の中のルールは守らねばならぬのだ。
よし、今度こそ。
そう意気込んでみたものの、また同じことをする将来の自分が容易く想像出来、ガックリと項垂れた。
いっその事、本当に厳しいペナルティーを設けてくれないかなぁ。
そしたら期日内にちゃんと返すのに。
そんな身勝手な事を考え、ぼんやり窓の外の景色を眺めた。