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#12 運転手は道を知らない。
アンカレッジのホテルから出発すると、
宿の前で宿主と運転手を連れてきたツアー担当がもめている。
宿主は、この車には乗るなと言っている。
我々は、ここからアリエスカスキー場に向かうつもり。
そこに連れて行ってくれる運転手が来ることになっていた。
どうやらその運転手のインド人は、アラスカに来て2週間で道を知らないので行き方を聞いたらしい。
ツアーの会社の人らしき人は大丈夫、大丈夫
宿主は、だめだめ絶対乗るな
と言っているようだった。
しかし、アラスカまで来て運転手信用できないからスキー場まで行かないというのは何だかなぁ。きっと何とかなるでしょうと、自分ともう一人の会社の同僚は車に乗り込んだ。
宿主は、だめだ今すぐこの車を降りろと叫んでいる。
年末のアラスカの海沿いの道には氷河が浮いているのか息を飲むほど美しい。いやもうずっと見ていたいと思う光景。
鉛色の空に白から青のグラデーションの美しさと言ったら。
しばらくして、車はコンビニのようなところで一旦停車した。
なぜ停車したか25年も前のことは覚えていないが、はっきりと覚えているのはエンストを起こしたことである。そこで店からやかんの湯を借りたのを覚えている。
スキー場への予定到着時刻に遅れていて運転手は焦っていた。
猛スピードで出発した。
同僚が、何か道行き過ぎていないか?と言い出した。
GoogleMapなんて便利なものはなく紙の地図をみて、今いるところは明らかに曲がるべきところを通り過ぎたと言っている。
どうやらそのとき彼は、山ン中に連れていかれて命奪われ金品強奪されるんじゃないかと妄想していたようである。
おいおい、道間違えてないか?運転手に問いかけると車を止めて皆で地図を見ながら現在地を確認した。道を間違えたと知るや、猛スピードで引き返し見落とした看板にたどり着いた。
1時間以上は遅れただろうか、運転手は本当にすまなそうにして気の毒なくらいであった。
彼はホテルのロビーでお金を受け取ることになっていたのだろうか?
ホテルの受付にひたすら遅刻を詫びていた。
彼は今どうしているか?
今でもタクシーの運転手だろうか?
彼にとっては迷惑をかけたことになってるかもしれないが
自分にとっては忘れられない想い出の一つである。