『2024年現代詩手帖12月号』所感・PICK UP!
詩論部分
ようやく読み切れた。やはりヘビー。
早速、色々と所感を書くが、まず討議「時間への戦略が問われている」。瀬尾さんが、「芸術言語」、「技術言語」、「民族言語」の三つをどのように扱っているか(定義しているか)は、眉間にシワを寄せながら読んだ部分であった(難しい)。この分類とは別に、野村喜和夫さんの詩で追求されているのが「言語未満」という領域なのだろうか。
この、上のような言語学の海にこれからどう身を投げるべきかの道を、「詩論ならざる詩論へ」で野村さんが示してくれた気がする。特に今井むつみ・秋田喜美著『言語の本質』は必ず読みたい。AIとも関わっていくこれからの時代、「記号接地問題」などの知見も深めたくもあり、さらには今、自分は言語過程論に凄く興味が湧いている。
(現在、ビオリカ・マリアン『言語の力』、はせくらみゆき『音ー日本語の美しいしらべ』も平行して読んでいるが、本当に面白い分野だと思う)
蜂飼耳さんも「悩むべき点は移動する」で、未来語、未来文体の意識を訴えながら、詩が人間を書いていく未来のことを書いていた。最後四行、特に賛成する文章であった。
2024年代表詩選
さて、代表詩選に移りたい。
ところで詩手帖の投稿欄では毎月、約800篇のうち30篇の佳作以上の作品が選ばれるが、計算してみたところ、それはこの代表詩130篇の中から5篇選ぶ倍率と同じくらいである。(実際は選者が二人なため、一人あたり2.5篇になるのだが)
たとえばこの号で掲載されている詩の中から、5篇選ぶとしたら皆さんはどれを選ぶだろうか?
苦悩しながらも、厳選してみた。簡単な感想も添えながら紹介したい。
皆さんと好みは合うだろうか。行ってみよう。
1.「夜のパゥ」小池昌代
一体、「パゥ」とは何なんだ。「ンガ」とは。いや、それらは太鼓の音なのかもしれないが、生き物として山に入ってもいく。パゥが山に消えてしまってからの後半、「意志を持つ花びら」が出てくるところなど、実に好きな部分である。
音としては出来損ないの「ンガ」と、小気味良い「パゥ」の、交わるはずのなかった階級差のラブストーリー、とも取れたり……?
2.「抱きしめてながれた日記」小峰慎也
開始四行で心掴まれ、溜め息が出た。なんて詩だ。
詩全体で、「見る」というものがキーになっているようだ。「心臓という字」、「紙芝居」、テレビの「フナの一生」、「他人の尻の穴」などなど…。これらは一体何だろう。
絵の描かれた後頭部が、後半広げられるような展開や、「笛の音」と「ひものうなりごえ」の対置されている感じも、非常に気になる。面白い。
3.「いつか砕けるものとして」西原真奈美
途中で挟まれる、括弧で括られたたった一行が、この詩の色をガラッと変える。
そのほか、顕著な所だと「ありありと 今さら」など、砕かれていく遺骨を前にした時の、生前の姿への想いが節々に滲み出ている。
そして悲しみが、露骨でない。涙を堪えているようで、良いのだ。それは、自分事に強引に引き込む締め方に、現れている気がした。
4.「祖母を抜く」神田智衣
怪作。私はこのような詩が書きたい、と常々思っている。一言で表してみよう。「崩壊した家の跡を掘り起こしていたら、大量の小さい祖母が出てきたため、それらを型抜きして取り出していこう」という詩である。ナンジャコリャ。
しかし、上のようにも読み通せないのである。家は崩壊していなかったりする。この詩のような、暮らしや歴史が根を張った精神世界に、読み手を閉じ込めて拷問していきたいものだ。強烈に問題意識をシンクロさせる手法の一つでもあるだろう。
5.「潤? harmony」清水恵子
稀にみる、カッコよすぎる恋愛詩だ。
表現も緻密で面白い。皮膚が布地として、そして飲む水も細い糸として書かれ、お互いの糸を絡み合わせる男女。
最後、〈この人じゃない〉という叫びに、「」の括弧ではなく〈〉の括弧が使われているのも面白い。
無数の声を交わし、次第に喉がふさがり、沈黙の中にも愛を感じるようになった後で、凝り固まっていた背骨の芯が体温でほぐれて、きしむ、動き出す。それは声にならない叫びだが、もう遅い。「いや、どう考えてもあんたにはその人しかいないやろ、黙っとれ」と、私は言いたくなった。書き手もそれを分かっていて〈〉を使ったように思う。
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他にも、水沢なおさんの「オイルになる」、高安海翔さんの「犬うごかん」、小松宏佳さんの「パタパタパタ」などなど、良い詩が多くあった。
たまに、「現代詩手帖は難しくて読めない」という声がXで見受けられたりするが、読めないものは読めない。私も、厳選の際に候補に挙げていた詩は全体の4分の1ほど。読めないもの、刺さらないものがあって当然だと思う。その中でこれだと思う詩に出逢うのが非常に楽しい。そして、読めるものを増やしていくのも楽しいのだ。
ぜひ、まだ読んでいない人にはオススメの号である。ではまた次回。