パトゥル・リンポチェの、涅槃日
5月29日(土)は、ザ・パトゥル・リンポチェ(1808 - 1887)の涅槃日にあたります(チベット暦サカダワ月十八日目に円寂)。
ザ・パトゥル・オギェン・ジグメ・チューキ・ワンポ(Dza Patrul Orgyen Jigme Chokyi Wangpo)は、近代における最も偉大な仏教の師のお一人でしょう。古訳ニンマの先生ではありますが、宗派を超えた立場のお方でした。権威や地位を好まず、生涯にわたって放浪をとげられました。「ザ」(Dza)とは、お生まれになったチベットの地域名(ザチュカ)からきています。
かの偉大な埋蔵経発掘者、クンキェン・ジグメリンパ(1729/30 - 1798)の転生化身であり、インドのナーランダー僧院の学匠シャーンティデーヴァ(寂天;7世紀)の化身ともされています。
※クンキェン・ジグメリンパにつきましては、過去記事「クンキェン・ジグメリンパの、涅槃日」を参照ください。
「クンサン・ラマの教え」(kun bzang bla ma'i zhal lung)という、チベット密教の加行を詳細に解説した大著があります(下の写真)。
クンサン・ラマ(全き善の師、普賢上師)とはクンキェン・ジグメリンパの二大弟子のお一人、ジグメ・ギャルウェー・ニュグ(1765 - 1842)の尊称です。そして著者が、クンサン・ラマの愛弟子であるザ・パトゥル・リンポチェなのです。
「ロンチェン・ニンティク」の埋蔵経発掘者ご自身(クンキェン・ジグメリンパ)の高弟であるクンサン・ラマから直接教わった膨大な口伝が、書かれています。
基本的には「ロンチェン・ニンティク」の体系に沿って説かれてはいるものの、メインは「共通の加行」(修行に入る上での心構え・心の訓練の章)および「帰依」「菩提心」の3つです。つまり正しい仏教徒であるための動機や心構えといったものが、みっちり書かれています(この本でよく誤解されるポイントなので、注意が必要です)。
高度な密教の技法が書かれているのではなく、基本的な仏教徒の心がまえがとことん記されているのであって、そこを無視していきなり「密教の章」に進んでも意味がないのです。まさにチベット密教の加行を志す者にとってのバイブルであり、決定版といえます。
ザ・パトゥル・リンポチェは他にも、シャーンティデーヴァ先生の『入菩薩行論』(菩薩の実践ガイド)の法脈を現代に継承された先生として知られています。
現在のダライ・ラマ法王は『入菩薩行論』を大変重要視されていて、各地で説かれることでこの教えが世界的に広まりましたが、その源はすべてザ・パトゥル・リンポチェにたどり着きます。ザ・パトゥル・リンポチェがいらっしゃらなかったら、おそらく『入菩薩行論』の法脈は今日、残っていないでしょう。
私の師匠とパトゥル・リンポチェとの間には3人の先生しか介していません。
先生の貴重な法脈がつながっている私にとっても、この日(5/29)は重要な記念日にあたりますので、ツォク供養を執り行なう予定でおります。