内なる本師瑜伽、リクズィン・ドゥーパ
「ラマ・リクズィン・ドゥーパ」(内なる本師成就法・持明者集会)は、クンキェン・ジグメリンパが発掘された「ゾクパチェンポ・ロンチェン・ニンティク」という埋蔵経の体系に属する、一大成就法のシリーズです。
「リクズィン・ドゥーパ」はさらに数多くの儀軌に細分化されています。
「リクズィン・ドゥーパ」はまさに、「ロンチェン・ニンティク」の法脈の根幹といえる成就法です。
私自身、「リクズィン・ドゥーパ」の完全な灌頂と口伝は3回、師から伝授いただいています。
「ロンチェン・ニンティク」には4種類(外・内・秘密・最秘密)の本師瑜伽が設けられていて、「リクズィン・ドゥーパ」はその中でも2番目、内なる本師瑜伽に位置づけられています。
「ロンチェン・ニンティク」を継承する寺院(主に古訳ニンマ)では、チベット暦十日には必ずといっていいほど「リクズィン・ドゥーパ」の儀軌を使ってツォク供養を修します。まさに正統派のツォク供養の儀軌といえます。
しかし「リクズィン・ドゥーパ」のツォク供養には、事前にいろいろな供物や法具の準備が必要になります。特に不可欠なのは、トルマと呼ばれるものです(下の写真)。
トルマというのは、小麦粉やツァンパ(麦こがし)やバターを練って作るものです。すべて僧侶の手作りです。彩色されてカラフルなのですが、牛乳や小麦粉を使った「生もの」のため、儀式が終了するとすべて破棄されます。
トルマには大きく分けて2つあります。1つは、本尊を降ろすための依代。これは「テントル」と呼ばれます。上の写真もほぼ、「テントル」です。
もう1つは、お供物としてのトルマです。こちらは依代ではありません。
ツォクには最低3つの「テントル」が必要とされます。御本尊を勧請して降りてきていただくための依代で、中央のトルマはグル・リンポチェ(ラマ・リクズィン・ドゥーパ)、向かって左はプルパ金剛や馬頭明王など含む八大本尊(パルチェン・ドゥーパ)、向かって右はダーキニー・イェシェ・ツォギェル(カンドォ・デチェン・ギェルモ)になります。これらは法脈が異なればトルマの形や色や名称も異なります。
ちなみにこれら三尊(本師・本尊・女神)はチベット密教では「三根本」と呼ばれ、密教の修行を進める上では絶対不可欠の存在です。
ツォクではさらに懺悔滅罪のトルマや護法尊のトルマなども必要で、僧院のような場所でないと、なかなかツォク供養の準備はできません。
私は自坊で「リクズィン・ドゥーパ」のツォク供養をしたくても、トルマの準備が大変なので、寺院に通って実修をしてきました。
しかし、僧院長が「生もの」でない御本尊の依代「テントル」がお寺にあるから使いなさいと、譲っていただきました。材質は陶器のようで、かなり重いです。しかしこれがあれば、自坊でも「リクズィン・ドゥーパ」が実修可能になったわけで、大変ありがたいことです。
御本尊のほうからいらっしゃったという感じで、大切にお祀りし、今後はさらに真摯に祈りたいと思います。加持のこもったツォク供養にいたします。