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花篭② / 自作小説

 細く暗く天井が高い廊下の足元には、白熱玉の暖色の小さなランプがあちこちに置かれ、漆黒の焼き杉板を磨いた床の表面の木目を照らす。微かに磨きに使ったのか柿渋の匂いに混じり、グラス系の香が僅かに漂ってくる。

「平安貴族時代の、人が通る時に流れる風で香が立つ仕掛け、あれはなんだったっけ?」

「よくご存知ね。でも私は知らないわ。私がここを作った訳じゃないもの。」

廊下の奥の、やはり黒い木目が微かに光る引き戸の前で美那子は立ちどまった。

「少し待って。」

そう言いながら、美那子は僕の背後に回る。背中に吐息の気配を感じたと思うと、両目になにかを被せられ視界を奪われる。

「ちょっと、」

「ただのアイマスクよ。私が全てしてあげる。だけど私に委ねて欲しいの」

 不意に右耳の側で囁く美那子の声の震えに、思わず首を竦める。背中に繊細な甘いさざめきが走り、肌が粟立つ。

 柔らかく湿った手の平が僕の右手に重なり、扉を開ける音の向こうにそっといざなうように踏みだす足。視界を奪われたまま、美那子の手に引かれおずおずと歩み出る。少しひんやりとした足の裏の感覚はやはり檜木の柔らかな感覚だろうか。


少し遠くに水の音がする。湯の蒸気に混じるハーブの香。


美那子の少し湿った手のひらが離れたかと思うと、すぐ背後で引き戸を閉める渇いた音がして、また、不意に手を引かれ、いざなわれるまま歩みを進めると、すぐにまた美那子の手のひらが離れる。

 美那子の髪の匂いだろうか、甘い香が近づいたかと思うと不意にあごを指で触れられ、喉仏の頂上に軽く痺れが走り、思わず呻く。
 
「敏感なのね。」

 左耳の側で囁く美那子の声に、また思わず首をすくめ、全身が泡立つ。

「少し顔をあげて頂戴。」

 言われるまま従うしかなく顎をあげる。首元にうごめく指を感じていると、シルクの帯の拘束が解かれる。ついで首のボタンを外され、息が少しだけ楽になる。


音も立てず柔らかく行われる指の儀式の連続。


 肩の後ろからジャケットが取り払われ、不意に腰を締め付ける帯の金具にかかった指の圧力と、その下に布越しに伝わる吐息に思わずまた、軽く呻き声をあげる。
 
 ベルトの金具が緩みズボンのボタンが外れ、少しずつファスナーが下げられる。遠くの水の音に混じり、ファスナーが外れる音がじりじりと聞こえる。

 美那子はどんな顔をしているのだろう。視界の制限を取り払いたい誘惑に駆られたがその勇気はない。

 ワイシャツのボタンが次々に、そして袖のボタンが外され、ワイシャツを脱がされ、
 
「腕をあげて」

 言われるままに腕をあげ、脱がされるままに任せている、その時、美那子の柔らかい膨らみが腹部に軽く触れる。


女の柔らかさ


ズボンとそしてトランクスも次第に引き下げられる。

「あら、大変な事になって。足を片方ずつあげて頂戴。」

悪戯っぽい甘い声。

 視界を閉ざされ立ち尽くしたまま靴下を脱がされる。それが屹立しているのを、出会って間もない、妖艶な女の目の前に露にされている己の姿を想像し、
「恥ずかしい」

呻くように掠れ声で呟く僕に答えようとせず、美那子の気配が離れる。

 美那子は服を脱いでいるのだろうか。暗闇の向こうの水と蒸気の気配の奥に感じる女の脱衣の物音。見たい衝動と見られるままに立ち尽くす羞恥が交錯し、興奮が高まっていく。

 不意に背中越しに美那子の柔らかな膨らみが、肩に回された細いうでの滑らかな肌の感覚とともに押し付けられる。

 肩に触れる髪と、腰の骨の近くに感じる柔らかな毛色の流れを感じた 瞬間、肩甲骨の窪みから背骨にそって快を伴った戦慄が走り、また呻く。

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①はこちらより



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