別にフェミだけじゃないのよ -バービー(2023)と"バーベンハイマー"の反応から見る、現代社会の縮図のはなし
久々の投稿です。
コロナ渦中にほぼ誰もいない映画館上映を経験してからというもの、映画を見ては感想をオーディオや文章で表現してきました。普段の生活の時間を切り盛りして、特に目標もなく続けてきたので統一感もない一方、自己表現の一種として今に至ります。また、何でも前情報無しで体験したがるのは渡私の癖で、その時の体験、世間のリアクションを追って書くのでめちゃくちゃ遅筆です。この夏の一大イベントになると確信していたこの映画の感想もだいぶ周回遅れで発信します。
*ネタバレを含みます。
バービー(2023)の感想と見所
"バービー(2023)"の制作発表を聞いた時は「は?バービーの実写映画...? あー、あれね、思い入れのあるIPを使った世代ノスタルジア的な映画になるんやろなぁ」とまったく興味が湧きませんでした。
が、監督が"レディ・バード(2017)"や"ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語(2019年)"のグレタ・ガーウィグ監督であることと、ハーレー・クイーン役でお馴染みのマーゴット・ロビーとライアン・ゴズリングが主役に抜擢されていることが話題(ゴズリングに関してはネタ)になり、西洋圏のネット上での期待値が爆上がりしていく姿にあっさり釣られてしまいました。さらに、公開日がクリストファー・ノーラン監督の"オッペンハイマー(2023)"とカブっていることがネタになり、"バーベンハイマー"というミームまで生まれ(後で説明します)、盛り上がりは公開後も衰えていません。
予習として"レディ・バード"を視聴しました。ギャグの異様なタイミングやペースの作り込みが細かく、全編通してピンクとベビーブルー(ターコイズ)の色使いが非常に上手く、「ガーウィッグは今作の超適役では?」と率直に感じました(当初はエイミー・シューマーが監督する予定だったらしいです。降りてくれてよかったね)。またガーウィッグが女性監督として歴代最高の国内興行収入を2週間弱(それまでは"アナと雪の女王2(2019)"一強)で塗り替えたこと、"バービー"の興行収入は公開2ヶ月経たずに"ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー(2023)"の記録的な数字を追っています。(初動ではマリオを上回っており、アメリカ国内では既にマリオを抜いています)。
一方の日本はというと、私の行った初日の劇場の席はあまり埋まっていませんでした。ただみんな"ピンクの何かを纏って映画を見る"という暗黙の了解の元(もちろんミームではよく見かけますが)、何かしらピンク色の物を身に付けていました。特にピンクの着物の2人の白人女性(観光かな?)のクスクス笑いに釣られて、まるで"イベント"のような笑いの絶えない上映でした。
感想としてはめちゃくちゃユニークで面白い映画だった!できればカップルに見てほしい!…けど日本人、特に一般的な男性には両手を上げてオススメするのが難しい内容…でもオススメできないからこそ見るべき映画なんじゃないかと感じました。
見所はまず、今年のオスカー狙えるレベルの超ド派手なプラクティカルなセットとコスチュームデザインです。実際のバービーの家や服装、車をそのまま巨大化したようなプロダクションデザインはクオリティのめちゃ高いです。
そして"丁度良い具合"のキャスティング("セックス・エデュケーション(2019–)"出身多くね?)、特にケン役のゴズリングの無邪気さ、ムカつかせるノリ、アホさ、を組み合わせた演技は完璧です。インターン役のコナー・スウィンデルゼもアラン役のマイケル・セラもいい役所でした。バービー(狂)役のケイト・マッキノンは"ゴーストバスターズ(2016)"の無意味にイカれキャラを演じることなく、社長役のウィル・フェレルも自分の映画でよくやる裏声大絶叫おじさん化することなく、笑いを上手く誘ってくれました。
もちろん、唐突なデュア・リパとジョン・シーナの登場には大爆笑です。
またメッセージ性の高いと定評のある今作ですが、ガーウィッグのギャグ色が全開です。映画館で声が出るほど笑ったのは久々かもです。
お気に入りのシーンに、バービーがNYで土方のおっさん達に露骨にセクハラされたことに対して、自分たちには性器が付いてないので疾しいことを考えても無駄(この時"ツルツル"と謎翻訳されています。一瞬パイパンのことかと思いました)だと言い返すシーン。それに対しておっさん達、小声で「ok, that's fine」とか言ってて既に面白いのですが、そこに追い打ちをかけるようにケンの「俺は全部の性器を持ってるけどな!(ドヤ顔)」で堪えきれずに大爆笑。
今作は、バービーやケンが住んでいるバービーランドという世界と現実世界のバービーが全てリンクしており、現実世界の持ち主の環境がバービーにモロ影響を与え、バービーを販売するマテル社がなぜかそれを管理(?)しているというメタい世界観です。ですが、映画はこの設定自体にあまり重きを置いていおらず、全編ギャグで通しているので、世界観や設定にツッコミを入れるのは、野暮です。
またCGや演出が全編通して意図して嘘くさかったり、手抜きっぽかったりするのもポイントです。もちろんこれもギャグの一環であり、映画そのもののメタっぽさを最大限に生かした演出なのですが、それが突然なんらかのメッセージを考えさせられるきっかけになっていたりします。
印象に残ったシーンに、マテル社の社長や社員がバービーを捕まえようと走り回るシーンがあります。社員皆がめちゃくちゃ嘘くさい走り方をしながら、同じ所をグルグル回りながら、まったく捕まえられない上に、バービーがゲートを乗り越えて逃げるのを目前に、ゲートのキーがないので皆で探し始めるという演出。私は笑いながら「あー、ジェンダーの誇張表現を露骨に皮肉っているのかな」と感じていました。
映画を初め、メディアの中の"女性のジェンダー"というものは心身、誇張表現がされています。それはそもそも男性社会が作ってきた訳なんですが、ガーウィグはそれを逆手に、女性視点で男性の"揃いも揃って無駄にドタバタ走り回りながら、応用性ゼロ"という"男性のジェンダー"をギャグ多めで誇張した表現だったのでは、と感じました。
今作はそういった"男性"や”男らしさ”と同時に"女性"や”女らしさ”をギャグに絡めながら多角的に描いており、現実社会をオブラートに映しています。例えば、マテル社の重役が並ぶミーティング室を見た瞬間に「ワロタ、男ばっかやん」と瞬時に気付くか、後にバービーが「男性しかいないの?女の子の人形なのに?」と言われて気付くか、観る人のアンテナの感度が試されているのです。
今作はケン側(男性)をディスる展開があるので、それを見て大層不満がる男性が続出するのも無理はないでしょう("ゴッド・ファーザー(1972)"のファンなだけかもですが)。それは同時に大衆のリアクション=現代社会の縮図を映し出しています。
作中のケン(ら)はバービーたちが主役のバービーランドでは"お飾り"として生活しています。これは現実世界の"女性"の立ち位置を表現しています。そんなケンは家父長主義(と馬)を学んでしまい、バービーランドを乗っ取り、バービーたちを現実世界の女性のようにミソジニーチックに扱う社会に塗り替えます。この状況を打開する方法が、なんとケンたちが現実世界で学んだミソジニーと家父長主義を逆手にホモソーシャル内で大戦争(ダンスバトル)を勃発させるという大爆笑モノ。バービーに誰よりも振り向いて欲しかっただけのケン(ら)の対象はいつしか"バービー"ではなく、"バービーを取り合ってる俺(ら)スゲェ!!"という状態になり、現実世界さながらのモホソを展開、リズムに合わせてマチズモ全開で皆勝手に仲良くなり、勝手に自滅します。
同時に"ケンの扱いが酷い、可愛そう、イタい"と感じることこそ、ケン=現実世界の女性、即ち"声をあげようとする女性"に向けられている我々の冷たい眼差しでもあるのです。この辺は現代社会学を薄ら齧っているだけで映画の奥行きが一気に広がります(私も勉強中ですが…)。
私は男性なのでケンのパートが面白くて長々書きましたが、もちろんバービー側のストーリーやメッセージがしっかりしています。ガーウィグが他作品でも描いてきた"何者にも縛られない女性"は、ロビー演じる”理想のバービー”が陥ったアイデンティティクライシスを自分の持ち主との交流や冒険を通して、ロールモデルや"らしさ"からの脱却する姿を絶妙に描きました。
"バーベンハイマー「騒動」"に関して
今作の日本国内のネット上(主にX)での話題といえば、"バーベンハイマー「炎上問題」"がありました。これは"バービー"と"オッペンハイマー"の主人公が原子爆弾のキノコ雲とコラージュさせた画像を米バービー公式アカウントがいいねや拡散をした件です(公式謝罪、撤回済み)。私にとっては「広報がミームに絡んで行くのは少し軽率かな」ぐらいの反応のだったのですが、未だ今作の話題として「炎上」が挙げられているのを見るとゲンナリします。この件に関しては心底しょーもない話だし、映画と関係のない箇所で盛り上がりすぎだし、集団ヒステリアみたいだし、"なんかキモいな"というのが正直な感想です。
西洋圏のネット界隈では4月末頃から23年の夏の2大映画、"バービー"とノーランの"オッペンハイマー"を梯子して見ることを"バーベンハイマー"と称して盛大に盛り上がっていました。これは単純に敏腕監督の撮る、全く違うトーンの映画のギャップと、作品をクロスオーバーさせるミームが勢いづかせたのが原因です。
これは別に珍しい現象ではなく、2020年には"あつまれ どうぶつの森"と、"ドゥーム・エターナル"の発売日が被っていることがミームになりました。ほのぼのライフシミュレーターと超グロFPSが同じ棚に並んでいる姿が"男の二面性を表現している"としてネタになり、2作品をクロスオーバーさせるファンアートが流行りました。つまり、事の発端は原爆だからネタにした訳ではなく、ミームの映画が偶然原爆を扱う作品だっただけなのです。
ここで”原爆を揶揄するとは何事か!日本に対する侮辱だ!”と言いたくなる気持ちは解らなくもないですが、正直意味不明です。なぜそもそも、皆さんがお怒りの"キノコ雲"や"原子爆弾"のイメージが"広島と長崎に落とされたもの"だと決め付けている意味がさっぱりわかりません。"オッペンハイマー"が"原爆の父"の伝記映画であるなら、マンハッタン計画の原子爆弾"トリニティ"のものだと考えるのが普通です。"日本"を特定をさせる画像でもなんでもないのに、被害者意識がデカすぎませんか?
中には9/11の爆発するビルにバービーのロゴをコラージュした画像を貼り付けて"君らがこんなんされたらどう思うねん!?"みたいなトンチンカンな反応もありました(因みに9/11を揶揄するミームはいくらでもあり、"9/11のミームで笑ったら天国に行けなくなった件"のミームまでがセットです)。反論になってないです、病気です。というか"原爆を落とされた日本"を免罪符のように使う人がネット上(にだけ?)に溢れていてドン引きです。というかこんなクッソしょーもないミームにピキって"日本人として"とか"被曝国として"とかクソデカ主語を持ち出す人、異常です。やっぱり病気です。
「炎上」はさておき国内でのマーケティングがほぼ死んでいるのも気になりました。上記の騒動のせいで下手に宣伝できなくなったのでは?との考えも過ぎりますが、パンフレットで吹き替え陣の誰一人にもコメントを当てていないのを見ると、そもそも全くやる気がないことが伺えます。むしろ上記の騒動のおかげでようやくトレンド入りしたぐらいの印象です。バービー人形が日本でメジャーではないこともさながら、日本で低い知名度のガーウィグも相まって、グーグル検索時に画面がピンク色でキラキラ光らせるぐらいしか話題作りをしてきませんでした。安直ですが、ジェンダーやLGBTQに理解のあるバービー(お笑い芸人の方)に広報をさせたり、吹き替え役をさせるみたいなマーケすらしていないのを見ると、パンフのライター陣以外、公式が映画の内容を理解しているかすら疑問に思います。
アートハウス好きや、意識の高い系、流行り物好きの人たちぐらいが、公式のキャンペーンでもなんでもなく、ピンクを纏って自ら映画館に足を運んでいるのを見ると、まったく受け入れられずに批評されてでも、現代社会のあり方に疑う余地なく生活する、いわゆるステレオタイプな多くの人たちに無理やりでも見せてやるぞ!くらいの勢いで広報するべきだったのではないでしょうか。
映画はめちゃくちゃ楽しいのに、今作に対する反応が今の日本社会のあらゆるよろしくない側面が垣間見えて、なんだか萎えたりしました。
今作のオープニングは、全編ピンク色全開とのギャップも兼ねたセピア一色。それまでは母親ごっこ遊びの為の人形でしかなかった人形に革命をもたらしたバービー人形の登場を"2001年宇宙の旅(1968)"の猿人に知恵を与えたモノリスの登場シーン(空にぶん投げた人形が、映画のタイトルロゴに変身するとこまで完璧なパロディ)に擬えたところから始まります。余りにも馬鹿馬鹿しく、派手でカオスな今作は、このオープニングのように多くの人が社会のあり方や、ジェンダーを考えるきっかけになるクオリティの高い、色々考えさせられる映画でした。
私ももう一度を観に行くなら、違う人と観て、また違う感想を語り合いたいなと思っております。
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