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大判カメラの魅力とは?
このところ、蛇腹関連の記事を立て続けに書いていましたが、
「そもそもなんで今どき大判カメラ?」
と疑問に思われた方もいるかもしれません。というより多分大多数の方は
「デジカメじゃダメなの?」
とお考えなんじゃないかと思います。
今日の記事では、特に
「え、デジカメで良いじゃん」
「今どき大判って…なんで?」
とお考えの方に、大判カメラの魅力を熱く・クドく語ろうかと思います。
デジカメでも良いのでは?
はい。ぶっちゃけた話、令和五年の今となっては、普通に写真を撮るならもうデジカメ一択です。
デジカメの機能、性能いずれも普通に写真を撮るなら、もう全然問題も無いし、何ならAF性能、連射性能とかフィルムカメラでは到底比較にすらならないくらい優れていると思います。
なので、僕も最近は
「これからカメラをやってみたい」
という方には、ミラーレス一眼をオススメすることが多いです。
何なら、コンデジで悩んでいる方には
「スマホのスペックによっては、スマホの方が良いかもですよ」
とおすすめすることすらあります。
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どんなシチュエーションで、どんなふうに使いたいかが決まっている方には、その状況に応じてフルサイズとかAPS-Cとかm3/4とかをそれぞれ提案することもあります。
あえて
「フィルムで撮ってみたい」
という物好きな方には、あれやこれやとフィルムカメラをオススメしていますが、原則的に『フィルムじゃなきゃヤだ』という方以外には、デジカメをオススメしています。
じゃあなんでフィルム? しかも大判??
フィルム写真の魅力は何? と問われると、少しばかり前なら
「デジカメよりも高精細!」
とか
「フィルムならではの味が!」
と答えていたんですが、最近はちょっと考え込んでしまいます。
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このところ、
「フィルムの魅力ってなんだろう?」
と考えても、なかなか答えが出せずにいます。
もちろん、アナログならではの階調であったり、「ちゃんと撮れてちゃんと現像されたネガの高精細感」であったり、フィルムの銘柄別の違いだったりも魅力なんですが、突き詰めていけば、
「個人的にアナログなものが好きだからフィルムを使っている」
というだけの話なんじゃないか、と思う事が多いです。
ちょうど、CDでバイオリンの曲を聴くのと、バイオリンの生演奏を聴くのを比較するような感じかもしれません。
CDはその規格上、22500hzの音までしか記録できません。
人間の可聴域は、一般的に20~20000hzと言われていますので、CDも充分に人間の可聴域をカバーしています。
が、バイオリンの生演奏で楽器が放つ音の中には、可聴域を超える(いわゆる超音波と呼ばれる帯域の)音も含まれています。いわゆる倍音という代物です。
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アナログの魅力は、この「人間が本来知覚できる範疇にない情報」なのかも、と考えています。
デジタルにおける色や階調の表現は、明暗が16ビットとすれば65,536段階。色の種類も一般的なディスプレイが表現するのは16,777,216色で、これはもはや人間が識別出来る細かさを超えていると思います。
ただ、フィルムはアナログです。
明暗は段階でわけられていませんし、色の種類も1677万色にはとどまらないでしょう。
厳密に言えば、そこまでの情報は僕も含めた普通の人は知覚出来ないものだと思います。
が、意識が捉えなくても、人間の感覚器が捉える情報が含まれている……かもしれません
フィルムを使うカメラにおいて、フィルムのサイズというのは非常に大きな要素です。
ハーフサイズカメラや110フィルムから始まり、35mmフィルムのいわゆる「ライカ判」、中判の6x4.5判から6x9判の「ブローニー判」まで、いろいろなサイズのフィルムがあります。
そんな中で「大判」のフィルムは、他のフィルムとは明らかに一線を画す存在です。
じゃあなんでわざわざ「大判」を使うのか? という問に対しては、
「1枚の写真に内包される情報量の多さが桁違いだから」
という答えを返すことになると思います。
大判フィルムの種類と「情報量」って
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一般的に、大判フィルムは
・4x5(約101x127mm)→12,827平方ミリ
・5x7(約127x178mm)→22,606平方ミリ
・8x10(約203x254mm)→51,561平方ミリ
といったサイズがよく使われています。大多数は4x5で8x10は少数派、ごく一部の好事家の間で5x7が使われている、といった具合でしょうか。
いわゆる「フルサイズ」のデジカメのセンサーサイズは、横36mmの縦24mmというサイズであることがほとんどだと思います。
面積でいうと864平方ミリです。
フィルムの粒子の密度=センサーにおけるピクセルの密度とはならないと思いますが、面積だけをもとに非常に乱暴な計算をすれば、
4x5フィルム…フルサイズのセンサーを約15枚並べて1枚の写真を撮る
5x7フィルム…フルサイズセンサーを約26枚並べて1枚の写真を撮る
8x10フィルム…フルサイズセンサーを約60枚並べて1枚の写真を撮る
といった感じです。
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フルサイズのデジカメで風景を15分割して撮影し、それを並べ直して1枚にまとめた写真=4x5の写真1枚、というふうに言い換える事もできます。
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望遠レンズで撮った、非常に細かいところまで描写された写真を並べて、それで1枚の写真にするワケですので、出来上がった1枚の写真には膨大な量の情報が詰め込まれています。
この膨大な量の情報全てを人の眼が知覚する、というわけではありませんが、ちょうど「アナログ楽器が出す人間の可聴域を超える音」のように、人間が知覚出来ない情報が、実は人の感情や意識に影響を及ぼしているんだと思います。
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大判『カメラ』の魅力って?
じゃ大判フィルムを使う大判カメラってどんなもの?
というと、
・基本的に「蛇腹のついたハコ」
・シャッター機構はレンズ側についている
・フィルムは、専用ホルダーに入れて1枚ずつ入れ替える
といった感じです。
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非常に原始的、プリミティブな構造で、便利なオートフォーカス、自動露出、連射などの機能は一切ありません。
ピントは蛇腹を伸縮させてレンズを前後に動かして調整します。
露出は、別途露出計を使って計測して、手動でレンズ側で調整します。
そして、基本的に1枚ずつしか撮影できません。
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カメラの「機能」の面で言えば、デジカメとはもはや比べるべくもありません。完全に手動、フルマニュアルのカメラです。
…と書くと、何の魅力もなさそうに思えるかもしれません。
が、実際のところ
・蛇腹を使ってピントを調節するので、無限遠~かなりの近接撮影まで可能
・露出計を使って撮影するので、慣れれば思い通りの露出で撮れる
というメリットがあります。
最も原始的なカメラではありますが、「写真を撮るのに必要な事」を全て身につけることが出来るカメラでもあります。
構図は大きなピントグラスで確認し、フォーカスも手動で丁寧に。
そして露出も反射式露出計を使うのか、入射式露出計を使うのかでかなり異なります。
そして最大のメリットは、
『巨大な面積を持つ大判フィルムを扱える』
というポイントと、何よりも
『とにかく撮影の全てのプロセスがアナログで楽しい』
というところに尽きると思います。
実際修理してみて
今回、Rittreck View2号の蛇腹を作って修理してみて実感したのが、
「カメラって本来はこんな単純なメカなんだな」
というところです。
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単純なメカをアナログな方法で操作しますが、撮れる写真は超絶緻密、高精細なものです。
4x5フィルムは6400dpiでスキャンすると、実に7億ピクセル程の巨大な画像になります。
実際プリントする際などもそんなとんでもないデータは扱いづらいし、SNSでシェアするのであれば、巨大なデータは使えません。
ただ、非常に原始的なメカを全て手作業で操作して撮れる写真が、デジカメの高解像度機を遥かに凌ぐような高精細なものだったりすると、結構優越感に浸れたりします。
結局のところは「自己満足」という四文字に帰結してしまいますが、デジカメのスペック競争、そして多機能化に疲れを覚えた方には、特におすすめしたいカメラです。
大判カメラ、楽しいですよ。