「パスカルの蝶たち」に触れて
下町の匂いが残る踏切を越えた線路沿いに、ひっそりと佇む昭和レトロな建物の中に足を踏み入れると、そこだけ時が止まったかのような静謐な時空に蝶が舞う。
あの蝶によるインスタレーションを様々な場所で展開させている美術作家、木村奈央氏の発案により葉っぱを蝶の羽に擬え、集った作家たちの色とりどりの想いを蝶に託すように彼女の元へと届けられた作品だという。
しかし、木村奈央氏の蝶はそこには無い。それを聞いて少し残念に思ったが、この空間を作ることが今回の彼女の作品だと伺った。
「何故、パスカルの蝶なのですか?」と問う私に、木村氏はパスカルの「人間は考える葦である。」という言葉からヒントを得たのだという。そこから、一枚の葉っぱに何か手を加えてみたくなる発想は人間の性ではないかと話してくれた。
その葉っぱを用いて蝶という同じモチーフをそれぞれが手を加え作品にするならば、逆にそこに手を加える一人一人の個性や価値観の多様性が見えてくるのでは無いかとの考えが浮かんだそうだ。
パスカルの肖像画を透過させたヴェールには、羽が欠けていたり、ちぎれているもの、言葉を載せてあるものや、祈りが込められているもの、独特の色彩でアノ作家のものだとひと目で分かる蝶もあった。
蝶が舞うヴェールの間を歩いて写真を撮ると面白いですよーと木村氏に促され、写真を撮っていただいている間に自身の書いた「コトノハ蝶」という詩が降りてきたイメージと重なり、デジャヴュを見ているような夢見心地な時間に心が躍った。
それぞれの想いを秘めた個性豊かな蝶たちは、触れ合う私たちの優しい記憶となって羽ばたき続けていくのだろう。
すっかり時を忘れてしまった……
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実冬の味読で大事な作品を使わせて頂いた御礼も兼ね、久しぶりにアートエッセイを書きました。
こちらの展示は鶴身印刷所(文化施設)にて、10/24(日)まで展示されます。
【開催時間】
土日11:00-18:00
平日13:00〜20:00
実冬の文章や朗読がいいなって思っていただけたら嬉しいです。 お気持ちは、自分へのご褒美に使わせていただきます😊