#27(昔話)ワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田
初めてのシネコン
今回の昔話は、ワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田です。関西初のシネコンとして、1990年代前半に大阪南部の岸和田市にオープンしました。当時はひとつの映画館にスクリーンが2つか3つのところが多かったため、8スクリーンもあるワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田は斬新でした。ワーナー・ブラザースのキャラクターが随所にデザインされた米国のような複合型映画館のシネマ・コンプレックスは、なんだか異国の地に足を踏み入れたかに思える映画館でした。その後、2000年代に入って映画館のシネコン化が一気に加速し、梅田・難波から大阪南部まで、主要な映画館のシネコン化が完了した頃の2008年に閉館を迎えることになります。
ワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田の場所
最近では、地方のシネコンといえば駅から離れた郊外のショッピングモール内に入っていて、車で行くようなところが多いですが、ワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田はJR阪和線の東岸和田駅前にありました。東岸和田駅は快速の停車駅で、天王寺駅から快速で30分くらいのところです。
南大阪在住の私にとって、それまではハリウッド映画を見る大きな映画館といえば南街会館でした。ハリウッドの大作を見に行くときは、上り電車に乗って大都会の難波に向かうもの、という意識がありました。それが、ワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田ができたことで、ハリウッド映画を見るのに南へ向かう下り電車に乗ることになり、当時はまずこれがなんとも新鮮でした。
90年代に見た映画
ただ、ユナイテッド・シネマ岸和田の紹介に書いたとおり、この当時の私はまだバイトもしていない学生で、映画館に行くのは年に数回程度の特別なことでした。このため、90年代にはワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田でほとんど映画を見ていません。そんな中、ここで見た映画でよく覚えているのが、トム・ハンクス主演のロン・ハワード監督作『アポロ13』です。アポロ11号が人類初の月面着陸を成功させた後の月面探査計画で、3人の宇宙飛行士を乗せて月へ向け打ち上げられたものの、月の近くで致命的な事故を起こしたアポロ13号。絶望視されつつも奇跡の生還を果たした実話を描いた作品です。
この『アポロ13』は、まあとにかくすごい。奇跡の生還を果たしたという史実を知りながら見ているのに、絶体絶命のピンチをどう切り抜けるのか目が離せない場面の連続で、緊張させられっぱなし。たしか、この作品は事実をわりと忠実に再現しているという話で、宇宙船や宇宙計画の技術的な描写も観客が置いてけぼりにならない程度に詳細に描かれ、とても見ごたえのあるものでした。これを見て私は、「NASAの技術者かっこいい! どんな仕事でもいいからNASAで働きたい!」なんて思ったものです。その後、私は理系へ進むことになるのですが、おそらく『アポロ13』に大きな影響を受けています。
ワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田に『アポロ13』を見に行ったのは夏頃で、ちょうどその前の春先に南街会館で見ていたのが同じくトム・ハンクス主演の『フォレスト・ガンプ/一期一会』でした。『アポロ13』のトム・ハンクスは『フォレスト・ガンプ』のときとあまりにも別人で、「なるほど、これがアカデミー賞の主演男優賞を受賞する俳優ということか」なんて思っていました。
2000年代
その後、2000年代に入って就職してからは車に乗るようになり、自由になるお金も増えたため、たまに思い出したようにワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田に足を運んでいました。ただ、この頃にはわずか数km西にユナイテッド・シネマ岸和田ができていて、そちらに映画を見に行くことが多くなっていました。ユナイテッド・シネマ岸和田の紹介にも書いたとおり、映画ファンのことをよくわかっていると思える劇場スタッフの対応がとても居心地よく、会員制度でポイントがたまるというメリットもありました。次第に、東岸和田と岸和田のどちらで見るか迷うときには岸和田で見る、という感じになっていきました。
そうして、「そういえば最近ワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田に行っていないな」と思っていた頃に、閉館するので最後に特集上映を実施するというのを知りました。2007年の年末か、2008年の年明け頃です。「ああ、最近はユナイテッド・シネマ岸和田ばかりで、ワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田には行ってなかったもんな…」と思いつつ、閉館となると、なんとも残念でなりませんでした。建て替えが前提だった南街会館の閉館のときとは違って、もうこの地から映画館がなくなってしまうというのが、より一層こたえました。
閉館前の特集上映
最後だから、と思って閉館前の特集上映は結構たくさん見に行きました。でも、何を見たのか、あまり覚えていません。ずっと、「ああ、こうなる前にもっとしょっちゅう来ておけばよかった」と思いながら見ていた記憶ばかりが残っています。
その中でひとつだけ、とてもよく覚えているのが『フォレスト・ガンプ』です。南街会館の昔話に書いたとおり、私が初めてひとりきりで映画館に見に行った作品で印象深かったものの、当時は内容がいまいちピンと来ませんでした。それをワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田の閉館前の特集上映で久しぶりに見て、ようやくいろんなことが理解できました。映画では、時代の波にもまれながら、数奇な運命をたどりながらも、本人は変わることなく自分の人生を歩んだひとりの男性と、時代に翻弄されながら人生を歩んだ周囲の人々の物語が、随所にアメリカ現代史の出来事を散りばめて描かれていました。アメリカの歴史に絡めた人生の悲喜こもごもがとても面白く、でも、これを昔の私が理解できるはずもなかった、ということもよくわかりました。結局、アメリカの歴史をそれなりに知らないと、面白さが理解できない作品だったな、と。
これは私の頭が完全に理系寄りのせいだと思うのですが、昔から歴史や政治にはまったく興味が持てませんでした。誰がいつ何をしたとか、そんな偶然の積み重ねを覚えることに何の意味があるのか、くらいに思っていました。自然科学系の分野については、物理法則を知れば世界がとてもよく理解できるようになるし、数学なんてときには芸術的な美しさが垣間見えるし、という感覚で、いくらでも興味が湧いたのですが、社会科学系の分野はさっぱりでした。でも、就職してしばらくした頃にようやく、自分が生きる世界の日常が日々歴史を更新していると思えるようになりました。そして、この世界は過去からどのようにつながって現在へ続いているのか、と少しだけ歴史に興味が持てるようになりました。それでようやく『フォレスト・ガンプ』が理解できるようになった、という感覚でした。十数年越しで、このときやっと過去の自分と現在の自分と映画の全部に納得できたように思えました。
映画って、それを見たときの周囲の状況や感情とともに自分の中に残ります。特に映画館で劇場公開時に見ると、作り手がその時代だからこそ表現できたものを、その時代に生きた自分が映画館での体験や風景と合わせて受け止め、そのときの感情とともに自分の中に封印するようなところがあると思います。その映画を何年も経ってからまた見るのは、宝箱を開けるような体験だと私は思っています。映画館で映画を見るほどに、その宝箱は増えていくような気がするので、やっぱり映画は映画館で見たいな、と思ってしまいます。
南街会館で初めて見た十数年後、ワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田で見た『フォレスト・ガンプ』は、そんな宝箱を開けるような体験をした映画でした。時をおいて、昔に見た映画を再び見て何かを発見することは、とても素敵な映画体験でした。でも、そんな体験をした『フォレスト・ガンプ』のことを私が思い出すとき、いつもワーナー・マイカル・シネマズ東岸和田の閉館が一緒に思い出されます。そこに映画館の閉館の思い出はいらない、もう映画館がなくなってほしくない、と今はただ思います。
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