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ベジ・ファーストが否定された?という話について思うこと

発端

2024年10月21日に、テレビ朝日のニュースサイト「テレ朝news」にて

  • 野菜から食事「ベジ・ファースト」厚労省が報告書から削除 「効果なし?」動揺広がる

という報道がありました。その後すぐに削除されたので当該の記事を今では見ることができないのですが、一部掲示板などには途中まで記事が転載されています。

健康を意識して食事の時に「最初に野菜を食べた方がよい」とする記述が、厚生労働省の資料から削除されました。「効果はなかったのか?」など臆測が飛び交っています。

街の人
「研究結果が覆されたということですか」
「あんなにやってきたのに。あんなに頑張ってきたのに」
「今もまさにしてきたんですよ」

 20日に街で聞かれた驚きの声の数々。その訳は、厚生労働省が公開した長い資料「食事摂取基準(2025年版)」の報告書についてです。なんと473ページにも及びます。
 食事に注目し、健康や生活習慣病を予防するための栄養素の摂取量などがまとめられていて、5年ぶりに改訂されました。
 糖尿病について、食事をとる時間や組み合わせに言及していた項目が削除。そこには、これまでこんな研究報告が記されていました。

食品摂取基準(2020年版から)
「食物繊維に富んだ野菜を先に食べることで食後血糖の上昇を抑制し、体重も減少させることができることが報告されている」

 野菜を先に食べてほしいという、いわゆる「ベジ・ファースト」。記載がなくなったことで、SNSで臆測が広がりました。
 厚労省は、ベジ・ファーストの効果を認めなくなったということなのでしょうか?

厚労省の担当者
「研究報告を肯定も否定もするわけではない」

これは、厚労省が公開している「日本人の食事摂取基準 2025年版」からベジ・ファーストに関する記載が削除されたことを述べたものです。

さまざまな反応と、たぶん一番信用できそうな結論

ベジ・ファーストをダイエット目的で実践していた人にとってはかなりショックだったようで、ネット上でちょっとだけバズりました。いちいち全部挙げていくときりがないのですが、おおむね

  • ベジ・ファーストの効果にはエビデンスが不足していることがはっきりした。(元記事

  • もともとから、ベジ・ファーストは血糖値コントロールに関するものであり、ダイエットのためのものではない。(元記事1元記事2

という二つの反応が主なようです。
それでは真実はどこにありそうかのかというと、おそらくはこの記事が一番正しそうな雰囲気を感じました。

極めて大雑把には

  • 厚労省の報告書は、栄養素の話のみがターゲットで、野菜などの具体的な食べ物に関する話はスコープ外だから削除されただけである。

  • そして、食べ物に関する話は、糖尿病情報センター発行の糖尿病診療ガイドラインに譲ったと思われる。

  • しかし、上記の糖尿病診療ガイドラインからもベジ・ファーストが削除されている。これに関する詳細な事情は不明であるが、エビデンスが不足した可能性は否定しきれない。

  • しかし、記事を書いた人としては、単に「ベジ・ファースト」という話題の重要性が低いから削除されただけではないかと推察する。

という感じです。私は完全に門外漢なのでこの記事の妥当性については評価できないのですが、少なくとも書いてある内容に矛盾や齟齬などは感じられませんでした。

「エビデンスが不十分≠虚偽」というのは、気持ちはよくわかるのだが

それはそれとして、気になった反応の一つを貼り付けます。

言いたいことはとてもよくわかります。ただ、

エビデンスが不十分≠虚偽なのに注意が必要

とだけ言ってしまうのは、反ワクチンやがんの補完代替療法、血液型占い、そして骨相学等の疑似科学の擁護にも簡単に応用できる論法となるので、あんまり乱用しないほうがいいような気がします。

「エビデンスが十分」という際の有意水準はどの程度なのか?

そもそも、「完璧なエビデンス」などと言うものは、どうやっても得られるものではありません。サンプルの集め方や試験方法などの難しさについては「理系が恋に落ちたので証明してみた。」という漫画を読むと分かりやすいです。

ただ、ここに書かれている課題を解決して多くのサンプルを集めたとしても、「たまたま偶然そういう結果が出た」可能性はゼロにはなりません。

よく統計学では「○%で有意」などと言う言葉を使います。これは「正しい試験を行った場合に『たまたま』そういう解釈ができる結果が出る可能性は○%である」ということを示します。
そして、臨床試験では何%有意を目標としているのか?というと、

過去に優越性試験の有意水準が片側2.5%で、非劣勢試験の有意水準が片側5%になった理由を調べてみた。調べて驚いたことに、この値はどこかで正式に決定されたというものではなく、慣例として使われていたものに過ぎなかった

検証的臨床試験における有意水準と試験の数—「臨床試験のための統計的原則」との関連で—

とのことで、慣例的には片側2.5%、両側5%有意であれば、「効果あり」と言ってよいということのようです。
それでは、ベジ・ファーストにより血糖値を減らす効果があるというのが、何%有意なのかというと、ベジ・ファーストが記載されていた厚労省の「日本人の食事摂取基準 2020年版」で引用されていた、「A simple meal plan of ‘eating vegetables before carbohydrate’ was more effective for achieving glycemic control than an exchange–based meal plan in Japanese patients with type 2 diabetes」なる論文によるとどうも1.6%有意ということのようでした。(本当にこの解釈であっているのか?)

A simple meal plan of ‘eating vegetables before carbohydrate’ was more effective for achieving glycemic control than an exchange–based meal plan in Japanese patients with type 2 diabetes

ただ、これはこの論文の著者が有意だと言っているだけのことで、世間でこの結果が広く認められているかどうかは別の話です。1.6%有意であれば、上記の臨床試験の基準から見ると十分にも思えるのですが、試験に余分な要素がある(20回以上嚙むとか、野菜以外にもキノコとか海藻の摂取量を増やすとか書いてあります)とかものが追試があまりなされていないということなのでしょうか?

または、この論文が掲載された雑誌が「Asia Pacific Journal of Clinical Nutrition」というImpact Factorが比較的低い≒重要度の低い雑誌だからかもしれません(だいたい「Japanese Journal of Applied Physics」と同じくらい)。
*STAP細胞に関する論文はNatureという権威ある雑誌に掲載されたからこそ、あれだけ大騒ぎになったという側面もあると思います。

まとめとしての個人的な体験談

私はもともとはベジ・ラストの人間でした。野菜、特に生野菜は食べると口がさっぱりするので、食事の最後まで取っておくことが多かったのです。
しかし、5年くらい前の人間ドックで、どうも私は空腹時の血糖値が少し高い体質だということが判明し、それ以来ベジ・ファーストを心掛けるようになりました。

この結果、HbA1cの値で0.3~0.4程度下がったのですが、これは同時期に運動するようになったり、食事の量を減らしたりするようになったことの効果との分離ができず、正直言ってベジ・ファーストがどれほど効果あるのかは私にもよくわかりません。
とはいえ、ベジ・ファーストを行うことが苦痛だということもないので、なんとなく習慣で続けてはいるのですが…。


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