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出会いを逃さないために 計画を立てない暮らしを おすすめしたい

10年前のクリスマスは、ボストンにいた。
『大草原の小さな家』の本を読みながら、ずっと憧れていたアメリカでのクリスマス。もちろん時代は違うのだけれど、物語の中でクリスマスはいつもあたたかく、心豊かで、人と人とが寄り添って生きることの象徴みたいなイベントだった。それを感じられることが楽しみでならなかった。

ホンモノのモミの木のクリスマスツリーを見た時には、絵本の世界が現実になったみたいな気分だった。スーパーマーケットの店頭には、大小さまざまなサイズのモミの木が売っている。自家用車を持たないままアメリカで1年間暮らした私たちは、高さ1メートル20センチくらいのモミの木を買って、ムスメが使っていたストローラーに載せて持ち帰った。丸くて赤いオーナメントは、地下鉄を乗り継いだ駅前にある、大きな手芸屋さんで買った。種類がありすぎて選べないくらいだったけれど、選んでいる時間が何より楽しかった。(ちなみに、クリスマスが終わったら、キラキラしたオーナメントを片付け、同じモミの木に千代紙で追ったツルをぶらさげて、そのままお正月の飾りにした。)
家の中にクリスマスのものを飾ると、ちょっとわくわくする。

毎年、クリスマスには絵本を贈っていた私は、ボストンでのクリスマスプレゼントも迷わずに絵本にした。
家の近くに、小ぎれいなビレッジヴァンガードのような、本も雑貨も売っているおしゃれな本屋さんがあった。一番奥の絵本のコーナーに行って、ムスコにはDK社の写真図鑑の中から興味を持ちそうなテーマのもの。ムスメには作り方が全部写真で載っている『KidsCooking』という本を買った。クリスマスの柄のラッピングペーパーは、凝ったデザインのものが沢山売っていたものの、アメリカの紙はへにゃへにゃしていて、ハサミで真っすぐ切るのも、きっちりと角を付けて折るのも思い通りに行かず、ラッピングには難儀した。

夕飯に何を食べようかと買い物に行ってみたら、日本ではありえないサイズのハムの塊肉が売っていて、結局それを選んだ。ぎらぎらしたホイルの中に入っているそれは、妙にアメリカっぽい感じがした。
そんなことも含めて、日本とは違うクリスマスの過ごし方は楽しかった。

ボストンに滞在していたのは、2014年4月から2015年3月まで、きっかり1年間。1年間しかいなかったとは思えないくらい、愛着のある街だ。

1年間の滞在が決まって、仕事を辞めた。ボストンに行くためというよりは、日本に帰ってきた時の、自分の生き方の選択肢を増やしたい、という理由だった。
渡米前は「ボストンに行って何をするの?」と、随分聞かれたけれど、全く答えられなかった。行ってから考えよう、と思っていたから。

最初から1年間、と分かっている滞在。今までとは全く違う環境での暮らし。日本じゃない場、現地だからこそできることを、味わいつくそうと思った。その代わり「あれをやろう」って決めていかない。何があるのか、何ができるのかなんて、行ってみなくちゃ分からない。行ってみて出会ったものに、何の遠慮もなく、取り組めるくらいに、自分の体と心をフリーな状態にしておきたいと思った。

1年間は本当に、ずっとキラキラしていた。ボストンを拠点に、多くの都市や国にも訪問できた。(アメリカ東海岸の都市や、カナダ、そしてヨーロッパは、日本からの旅程と比べれば、格段に行きやすい。)
それでも12月頃には、「ボストンでの生活が楽しすぎるから、旅行するより、ずっとこのまちにいたい」と感じるくらいになっていた。

良いところしか見つからない、素晴らしい町だった。住みやすいし、治安もいい。アジア人女性である私と、未就学の子どもたち2人で、バスにも電車にも安心して乗れた。(もちろん、このエリアやこの路線は、行かない方がいいよ、という場所はある。)私の住んでいたエリアは、徒歩でスーパーマーケットにも行けたし、図書館も本屋さんもあった。日用品や衣類を安く買えるアウトレットスーパーも。幸いなことにアジアンスーパーも!(徒歩圏内の概念が広がったのも事実で、徒歩20分は当たり前。)
学際都市でもあり、世界中の色々な国から人が学びに集まっているためか「ヨソモノ」に対して、とても親切だった。

その素晴らしさを存分に味わえたのは、何も決めずに行ったからだと思う。生活のあちこちで、ボストンの魅力に出会った。何にも邪魔されることなく、魅力を味わい、人と出会い、面白そうなことは何でもやってみた。
最初から、1年限りの生活だと分かっていたこともあり、密度の濃い、徒競走で走り抜けたような滞在だった。

何も決めていかないからこそ、出会えたものが沢山あったなぁ、と思う。何より、毎日の生活そのものが、本当に魅力的だった。
自分で事前に準備をして、それをなぞるような毎日もいいけれど、何も決まっていないからこそ、目の前にある面白そうなことや、はじめてのことや、何だかよく分からないことにも、手を出せる。

自分の生活も、人生も、最初から予測して、計画をたてて、決めすぎない。その方が、きっと、自分では予想もできなかった新しいものとの出会いを、逃さずにいられると思う。

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