「しごできさん」ほど 子どもとの時間はムズカシイ
「しごでき(=しごとできるパーソン)」にも色々なタイプがあると思うけれど、仕事が早くて確実で信頼されている人。段取りが優れていて、事前に状況を想定しているから、効率的に動くことができ、仕上がりも完璧・・・みたいな、処理能力が高いタイプの「しごでき」を思い浮かべて頂きたい。
その人の「得意」は、子どもとの時間の流れのなかでは、ことごとく発揮されなくなる。
子どもは想定通りには動かない。段取りを組んでも、その通りになんて行動してくれない。想定通りじゃない行動が1つあれば、綿密に組んだはずの段取りが全部台無しになる。そして彼らは、●時までに保育園に行かなくちゃいけない、みたいなスケジュールでは生きていない。今、目の前にあるものに意識を向け、時に、そこにぐーーーっと集中して、動かなくなることだってある。
子どもたちは、そういう価値観で生きている。自分が「今」惹かれるものが、世界のすべて。
子どもの興味を大切にしたい、とか、子どものペースを守りたい、とか、考えると、結局「待つ」ことが必要になる。当初の想定通りではない子どもの振る舞いを、じっと「待つ」。これは、自分の段取りで、サクサクと仕事をこなすことが得意な人には、なかなか慣れない時間だろう。
だから、私は、これからお母さん・お父さんになる人に向けた講座などでは、仕事ができて優秀な人ほど、子どもと向き合った時に、思い通りにならないことに戸惑うかもしれない。まして、仕事で発揮していた自分の「得意なこと」は、子どもとの時間には向いていないかもしれないよ、とお伝えしている。
はっきり言ってしまえば、「仕事で発揮できた優秀さは、子どもとの時間には役立たない」ということが分かったところで、どうにもならない。分かっただけ。
でも、それを知っているだけで気の持ちようが随分違う。子どもとの向き合い方に悩んだり、ついイライラしてしまうとき、「あぁ、そうだった、私のこの性質は、子どもとの時間にはあんまり向いていないんだよなぁ」と思い出してもらえたらいい。そして、ちょっとあきらめたらいいと思うんだ。「そうか、何もかもうまくこなすなんて、無理なことだな。」って。
自分ではどうにもできないことを、時に「あきらめる」ことって、生きるのに必須の「技術」だと思う。どうにもできないのに、どうにかしようとジタバタしたり、必要以上に落ち込んだりしなくていい。
そして、ただあきらめるだけじゃなくて、せっかくならば、今まで自分のなかになかった価値観をぜひ楽しんでもらいたい。(ホントは、自分のなかに「なかった」訳ではなくて、子どもの頃には感じていたものを、大人になるにつれて忘れてしまっただけだと、私は思っているのだけれど。)
道端に面白いものを見つけること。足元に目を向けながら歩くこと。同じ絵本を何回も何回も繰り返して読むこと。空の雲を色々なものに見立てること。小さなことに驚き、喜び、踊ったり歌ったり笑ったりすること。
それは、子どもたちが見せてくれる特別な景色。
しごできさんは、子どもとの暮らしの中で、仕事の効率とスピードは少々落ちるかもしれないけれど、その代わり、新しい価値観に出会えるんだと、私は思う。子どもと一緒だからこそ出会えたワクワクする景色だと感じてもらえたらいいな。