移民政策

【2019参院選】15争点で公約を比較してみた【移民・外国人編】

  本記事では、JAPAN CHOICE 公約比較 サービスと連動して、15個の争点について、解説を行っていきます! 表だけでは伝わらない、争点の構造や争点をめぐる経緯について各争点1記事ずつにまとめました。15の争点、今回は【移民・外国人】についてです。

はじめに

 移民の問題について考える前に、「移民」という言葉が具体的にどのような人々のことを指すかご存知でしょうか?辞書を引くと「個人あるいは集団が職を求めるなどのさまざまな動機、原因によって、恒久的に、あるいは相当長期間にわたって、一つの国から他の国に移り住むこと。」(日本大百科全書)と辞書的な言葉の意味を知ることができますが、移民問題を考える際の「移民」についてはどういう人を移民とみなすのかについての正式な法的定義はありません。様々な国際機関の定義を見ても、「移住の理由や法的地位に関係なく定住国を変更した人々」としたり、あるいは「期間に関わらず単に移動した人々」としたりとまちまちで、その定義は国によって異なります。国連における移民の定義は、「3カ月から12カ月間の移動を短期的または一時的移住、1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住と呼んで区別する」としています(1)。他方で、日本では国内での定義も統一されていません。政府は、現時点で「移民」の定義について様々な文脈があるため一概には困難と答えており(2)、自民党の政務調査会では「入国の時点で永住権を有するもの」(3)と定義しています。このように「移民」という用語は厳密に定義されていないため、使う人と文脈によって意味合いが異なっている可能性がある点には十分な注意が必要です。

1.外国人技能実習制度・特定技能

 外国人技能実習制度は1993年に「外国人研修・技能実習制度」として設立され、2010年に一度見直された後、2016年の「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(技能実習法)の成立に伴い現在の形となりました。開発途上国等の経済発展を担う人材の育成を目的としており、18歳以上の実習生は日本で働くことをとおして出身国では得ることのできない技能を学ぶこととなっています。しかしその実態は、最低賃金以下での労働や時間外労働など、技能実習生に対する搾取や人権侵害の温床になっているとして強く批判されています。
 新たな在留資格「特定技能」が昨年、2018年の12月に「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」に伴い創設されました。「入管法の改正」などの言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか?
 外国人技能実習制度と特定技能の一番の違いはその設立目的にあります。技能実習制度が「開発途上国等の経済発展を担う人材育成」という国際貢献を目的としているのに対して、新しく創設された特定技能は「日本の労働力不足を補うこと」を目的としています。そのため技能を身につけることを目的としていた技能実習制度には適用されていなかった、人手の不足している職業分野に外国人を雇用することができるようになりました。少子高齢化により労働力不足が想定される日本において、外国人労働者を受け入れていくことは不可欠かもしれません。しかし、特定技能資格を設け外国人の受け入れを拡大していくにしても、すでに技能実習制度で問題となっている人権侵害や悪条件などを改善していかなければ、結局技能実習制度と同じことが起こるだけです。外国人労働者をどう受け入れていくか、各党の政策を紹介します。
 自民党や公明党は、今の枠組みの中で適正に運用していくことを主張しています。一方で立憲・国民・共産・社民は、技能実習制度の廃止やそれに代わる制度の構築を求めています。しかし野党も外国人との共生の必要性は訴えていますので、外国人労働者の受け入れが重要なテーマであることは政党を超えて認識されていることなのでしょう。

2.外国人

 現在日本には、約320万人もの在留外国人の人々が暮らしています。その中には日本で暮らす中で、差別をはじめとした様々な問題に直面している人たちがいます。日本で暮らす外国人の権利を守るための政策が必要だといえるでしょう。
 上述の外国人労働者問題に限らず、ヘイトスピーチ問題など、外国人を攻撃する動きも、落ち着いてきているとはいえ依然根絶はされていません。2016年に罰則規定のない「ヘイトスピーチ解消法」が制定されましたが、今後この問題にどう対処していくか、ほとんどの党が外国人人権問題に言及しています。
 自民・党や公明・国民党は相談窓口の設置で対処しようとしています。立憲・国民・共産・社民は、外国人労働者の権利の保護、国民・社民は差別や人権侵害を許さない法律や体制を整備することで、解決を目指しています。
 また日本共産党は永住外国人に地方参政権を付与すること、社民党は外国人労働者の人権保護だけでなく生活保障も実施するとしています。立憲民主は「外国人労働者について国内労働者と同等の処遇を義務付け不合理な格差や差別的待遇を禁止する法整備」を、国民民主は「ヘイトスピーチ対策法の発展で人種などを理由とした差別を禁止する法整備」を、共産は「外国人の人権、労働者としての権利を守る体制の確立」を、社民は「ヘイトスピーチ」の根絶へ「人権侵害救済法」の制定をそれぞれ主張しています。


3.難民

 難民は、1951年の難民条約で「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れた人々」と定義されています。つまり自国に帰ることができず、また自国の保護を受けられない人々のことです。
 世界には、紛争や迫害、災害などを理由に故郷を追われ、支援を必要とする人々が2018年時点で約7480万人も存在し、またその数は年々増加しています。難民生活から抜け出すためには、祖国、避難先の国、あるいはそれ以外の第三国に定住しなければなりません。自国での問題が解決し故郷へ帰ることができれば一番良いのですが、現実的とはいえないため、どこかの国に受け入れてもらう必要があります。
 日本は、難民への様々な支援を行う機関である国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に対して多額の資金を拠出していますが、一方で受け入れている難民の数はとても少ないです。2018年度、手続きの結果日本への在留を認められた外国人の数は難民認定申請をした外国人の数が1,0493人であるのに対してわずか82人でした。このうち難民と認定されたのは42人で、難民とは認定されていないが人道的な配慮から在留が認められたのが40人となっています。
 この日本の難民認定率の低さについては様々な理由が考えられますが、一般的には「偽装難民」(出稼ぎを目的に、難民を装って在留資格を得ようとする外国人)を見分けるために審査が厳しくなっているという制度上・手続上の問題が指摘されています。また、難民を受け入れることに対して「保護」という観点ではなく「管理」という観点で捉えていることも問題として指摘されており、他の難民の受け入れを進めている国との意識上の大きな差であるともいえます。
 公明・立憲・共産は日本での難民の受け入れの拡大を主張しており、立憲・共産はそれに加えて難民の生活保障についても言及しています。国民民主党は難民の受け入れには触れず、難民問題の国際的な取り組みへの支援や、難民が発生した際の対応策を検討するとしています。

まとめ

 以上の争点は、どのような方針をとるかによって国際社会の中での日本の立ち位置や見え方に関わってくるグローバルな争点です。また、普段の生活ではあまり意識することがないかもしれませんが、難民問題など世界のどこかに支援を必要としている人がいるということについては知っておかなければならないのではないでしょうか。
 Mielkaでは他にも15の分野について比較記事が連載されています。それらと合わせて意思決定の際の一助となれば幸いです。

▶︎ シリーズ15の争点 他の記事はこちら




★この記事はJAPAN CHOICEと連動して各党の公約を分析したシリーズです。ぜひ他の記事・サービスもご利用ください。

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<引用>
(1)国際連合広報センター 「難民と移民の定義」
https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/22174/ (最終閲覧:2019年7月19日)
(2)衆議院 「衆議院議員奥野総一郎君提出外国人労働者と移民に関する質問に対する答弁書」
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b196104.htm (最終閲覧:2019年7月19日)
(3)高橋史弥 「移民の定義が狭すぎて在留外国人が『見えづらい存在』に。 望月優大さんは『流動性のある日本』を呼びかける」(2019年3月27日,HUFFPOST)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/mochiduki-futatsunonihon_jp_5c909728e4b071a25a8619b4 (最終閲覧:2019年7月19日)

<参考>
日本大百科全書 「移民」
https://japanknowledge.com/lib/display/?lid=1001000022559 (最終閲覧:2019年7月18日)
国際連合広報センター 「難民と移民の定義」
https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/22174/ (最終閲覧:2019年7月18日)
国際移住機関 「『移民』の定義」 
http://japan.iom.int/information/migrant_definition.html (最終閲覧:2019年7月18日)
日本大百科全書 「外国人技能実習制度」
https://japanknowledge.com/lib/display/?lid=1001050308437 (最終閲覧:2019年7月18日)
衆議院 「外国人労働者と移民に関する質問主意書」 
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b196104.htm (最終閲覧:2019年7月18日)
衆議院 「衆議院議員奥野総一郎君提出外国人労働者と移民に関する質問に対する答弁書」
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b196104.htm (最終閲覧:2019年7月18日)
厚労省 「外国人技能実習制度について」 
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/global_cooperation/index.html (最終閲覧:2019年7月18日)
法務省 「新たな外国人材受入れ(在留資格「特定技能」の創設等)」
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri01_00127.html (最終閲覧:2019年7月18日)
厚労省 「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/global_cooperation/03.html (最終閲覧:2019年7月18日)
厚生労働省 「我が国で就労する外国人のカテゴリー」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/gaikokujin16/ (最終閲覧:2019年7月18日)
e-Stat 「在留外国人統計(旧登録外国人統計)」
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00250012&tstat=000001018034&cycle=1&year=20180&month=12040606&tclass1=000001060399 (最終閲覧:2019年7月18日)
法務省 「ヘイトスピーチに焦点を当てた啓発活動」
http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00108.html (最終閲覧:2019年7月18日)
外務省 「難民問題と日本」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/nanmin/index.html (最終閲覧:2019年7月18日)
UNHCR日本 「難民とは?」
https://www.unhcr.org/jp/what_is_refugee (最終閲覧:2019年7月18日)
国連UNHCR協会
https://www.japanforunhcr.org/ (最終閲覧:2019年7月18日)
法務省 「平成30年における難民認定者数等について」
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri03_00139.html (最終閲覧:2019年7月18日)


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