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働くことへの希望を失ったロスジェネ世代は、今何を目指すのか
文・三上由香利(OTONAMIE)
数年前に登録した転職サイトから、一件のスカウトメールがきていた。5年前に登録し、解除するのをすっかり忘れていた。
今私が仕事を探したら、どんな仕事に就くことができるんだろう。興味本位で、久しぶりに転職サイトを覗いてみた。私が利用していた頃とは少し違っている。対象年齢を表記している企業が減ったこと。そして応募までのステップがとても簡単になっていた。
それだけ、企業側も採用に困っているということだ。私は以前ベンチャー企業の採用を担当していたこともある。経営者や採用部署の理想はとても高いが、その条件を羅列していたら誰からも応募が来ない。そのため、間口を広げて、まずは応募してもらおうというスタンスが大切なのだと理解した。
でも間口を広げようとするほど、企業と応募者のミスマッチは起きる。採用の際の条件をぼかすほど、「面接を受けてから…」「入社してから…」のトラブルは絶えない。SNS発信などのPR次第で、いくらでも人の興味をひける時代だから、余計に。
「編集・広報」「関西」などいくつか条件を入れて検索してみた。結果的に37件の企業がヒットしたが、おそらく本当に応募できるのは、この中で1、2件だと思う。あとはお祈りメールが来るだけだろう。
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でも私は正直なところ、この結果だけを鵜呑みにして悲観するのは早すぎるとも思う。ライターという仕事についてから、たくさんの求人記事を書かせていただき、世の中には大手求人サイトに掲載されている企業ばかりではないと知っているからだ。最近では求人サイトにはあえて掲載せず、紹介採用(リファラル採用)や、自社のSNS発信によって求人を行っている企業も数多くある。
では、なぜそういった企業は大手求人サイトに掲載しないのか。私はある経営者の方に質問したことがある。そうすると「企業や仕事の魅力を理解し共感したわけではなく、条件だけを見て応募してくる人が多いからです」と答えてくれた。
もちろん生活するために、少しでも豊かに生きていくために、就労条件を気にするのは当たり前のことだ。でも企業の経営者からすると、給料のためだけに働く「従業員」よりも、自分の企業に対して興味関心を持ち、一緒に未来をつくっていってくれそうな「仲間」が欲しいと考える人も少なくはないのではないかと気づかされた。
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仕事にまつわるインタビューをする中で、「40歳で異業種へ転職した」という人もいた。
自動車工場で整備士として働いていたが、薬品のアレルギーにより退職を余儀なくされ、昔からの夢だった美容師に再チャレンジ。現在は、理美容業界の大手チェーン店で店長として活躍している。また、小学校の教諭を退職して50代で林業にチャレンジしている方もいた。皆共通するのは、「自分の限界を決めていない」ということだった。
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先日取材した津高等技術学校では、就職に向けて、新たなスキルを身に付けるために就職氷河期世代の方々が頑張っているというお話をお聞きした。
津高等技術学校では、日商簿記検定(3級)やワープロ検定などの資格や、医療事務に関する資格を取得することができる。最近では、ITエンジニアの基礎教養を得られる「ITスキルマスター科」も人気なのだそう。中にはうつ病だったが、技術を学ぶうちに健康を取り戻し、無事希望の就職先に就くことができた方もいたそうだ。
担当の先生は、「いざとなったときの、人間の底力って本当にすごいんだと思わせてくれました。新しいスキルを身につけただけでなく、その過程で『生きる力』を養ってくれたんだと思います」と話してくれた。
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年齢を重ねるごとに、失敗を繰り返すごとに、「自分はこれしかできない」「ここまでしか頑張れない」と思ってしまうことが多々ある。でも自分の固定された考えや誰かの物差しで決めてしまった枠を外してみると、まだまだ自分でも気づいていない可能性があると気づくことが出来るかもしれない。
これから生きる人生の中で、今日が一番若い日だ。だから、勇気を振り絞って自分の考えをブラッシュアップさせ、挑戦していきたいと思う。そこからまた、新たな道が開けることもあるのだから。
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