互いの言葉
俺は走る
俺は一体どこへ向かっているのだろう
俺は一体何を求めているのだろう
冷たい。体が冷たい。
先月のこと 彼氏が交通事故で亡くなった
私は涙が出ないほど感情がなくなった
何も考えられなかった
葬式後、肩を叩かれた
「よ。久しぶり。」
そこには元彼がいた
私の彼は元彼の友達だった
元彼からの紹介で出会った
「久しぶり。わざわざありがとうね。」
「全然。突然すぎて…な。」
「私も心が追いつかなくて…」
泣いた
元彼の肩で泣いた
そこはどこか懐かしくどこか暖かかった
「ごめんね。ちょっと気が楽になった。」
「1人で抱え込むなよ。」
私はこうしてなんとか1日を乗り切った。
それから2週間後
仕事帰り、元彼とバッタリ会ってしまった
「お。この間ぶりだな。どうだ。調子は」
「そこそこかな。前よりはだいぶ良くなった」
「それは良かった。そうだ!気分転換に呑み行かね?」
「すぐ呑みに誘う癖、治ってなかったんだ笑」
「いいだろ笑これも俺のいい所じゃん」
「なにそれ笑」
私達はいろんな話をした。
最近会社で起こったこと
親の話
自分の過去の話
彼が生きていた時の話
私達が付き合っていた時の話
私達の幸せだったあの日常…
「なんだかんだ言って楽しかったよな」
「そうだね。楽しかった。」
「あのな!俺、言わなきゃいけないことがある」
「なに?どうした?笑」
「実はな俺…」
ビービー
「ごめん!電話掛かってきちゃった!」
「お、おう。」
画面を見る
親友からの電話だ
「もっしもーし!どうした!!」
「お、まさかの酔っ払いか」
「そうだけど?笑どうしたの?」
「あのさ、これ言っていいことなのかわからないんだけど…」
「うん。どうした?」
「あんたの彼氏。事故じゃなくて事故に見せかけた自殺だって。」
「え?…」
「誰かに車ではねて欲しいって依頼してたらしいよ。それの事情聴取でさっき警察が来たよ。」
「嘘だ…」
「あんたの家に行ったけど居なかったから連絡しといて欲しいって言われたから電話した。」
「そうだったんだ…」
「じゃ。そういうこと。あんま重く受け止めんなよ」
プツ
まさかの彼が望んだ死だった
「電話終わった?どうした。そんな暗い顔して」
「ううん。なんでもない。で話って?」
「あのさ、俺、お前のこと、ずっと好きだった」
「え」
「別れてあいつと付き合ってた時、すごく寂しかった」
「そうだったんだ。」
「ごめん。こんなタイミングに…」
「いいよ。付き合おっか。」
「え!よっしゃ!」
何を考えているのだろう
ただ心の隙間を埋めたかっただけなのに
その夜、彼と一晩を過ごした
「おはよ。」
「おはよ。昨晩はありがとう。」
「もう会いたい」
LINEのやりとり
私はほんとに彼を愛していたのだろうか
新しい彼に愛はあるのか
なにもかもわからなくなった
なぜ私はまだ生きているのだろうか
そんなことを考えていたら
いつの間にか橋の上にいた
黒いヒールを脱いで
腕を広げた
もうこれで全て終わる
やっと楽になれる
「馬鹿!!っ」
バタンッ
そこには彼がいた
「お前何考えてんだよ」
涙が溢れた
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめん…」
私は声を出して泣いた
私は死んでしまった彼と同じことをしようとした
大切な人を残して自分ばかり楽になろうとした
1人の人を傷つけてしまった
不安にさせてしまった
「俺無しでやめろよ」
「ごめんね」
ボチャンッ
2人で飛んだ
抱き合いながら飛んだ
月が反射する夜の川にまっすぐ落ちた
後日、彼女の遺言書にはこう書いてあった
「人間の生活の苦しみは、愛の表現の困難に尽きるといってよいと思う。この表現のつたなさが、人間の不幸の源泉なのではあるまいか。」
太宰治の言葉が1つだけ
よっぽど苦しんでいたのだろう
彼の遺言書にはこう書かれていた
「愛することは、いのちがけだよ。甘いとは思わない。」
これも太宰治の言葉
お互いが心に嘘を付き合っていたのだろう
さようなら
静かに眠れ
月の下でいつまでも