さよなら音楽
彼が創る音楽が好きだった。
もう聴くことはないのだろうけど。
1人夜の街を歩いていると歌声が聴こえた。
それはどこか儚い歌声だった。
路上で弾き語りをしているその男は
どこか寂しい顔をしていた
そして歌った
「最初で最後の愛した人よ。さよならを言うまもなく蝶となり消えた。」
普段恋愛モノの音楽を聴かない私にとって
とても心に刺さり涙が流れた
先日、彼女と別れた。
5年付き合った彼女だ。
彼女は消えた。
いつの間にか夜、帰ってこなくなっていた。
そして最後の連絡は
「ご飯いらない。帰んない。」
だけだった。
俺は今、もぬけの殻だ。
もう死んでしまおうかと思った。
さすがにそれはダメだ。
これからどうやって生きていこうか…
久しぶりに街に出た
寒い季節
カップルが多い
私は男とデートをしに行く
デートと言ってもセフレと
3年前彼氏と別れた
好きな気持ちがなくなり
どうしたらいいかわからない私は
帰らなくなりそのまま消えた
いま思えば凄く申し訳ないことをした
けど後悔はなかった
好きではなかったから
私はセフレと会ってそのままホテルへ行った
その道中 彼が音楽を掛け始めた
どこか聴いたことある声だった
元彼の声だった
私は彼に聴いた
「この曲どんな曲なの?」
「なんか元カノを思った曲らしい。それにしても可哀想だよな。最後に連絡なしに消えたらしいよ。」
一筋の涙が私の頬を流れた。
歌詞の中にあった言葉
「君が消えても僕の心の中からは消えなかった。ずっと帰りを待っていたよ。未だに待っているよ。」
その日にセフレと関係を切った
心が苦しくてもう会えなかった。
私は元彼に電話を掛けた。
繋がらない
番号を変えたのかな
寂しいよ
会いたいよ
ごめんね
私はこんな思いをさせていたのか
彼からの電話なんて無視していた
けど今思えばそれも愛だった
私は1人温かかったはずの冷めたコーヒーを
飲みながら帰った
元カノから連絡がきた
きっと曲を聴いたのだろう
携帯を変えたから昔の携帯に掛かってきていた
折り返すことはなかった
路上にいた彼は輝いていた
売れているのに路上でやる彼は光っていた
人だかりをかき分けて彼の元へ向かう
歌っているのはあの時聴いたあの曲
こっちに気づかず歌っている
気づいていないはずなのに
彼の目には涙が浮かんでいた
もう戻ることはできない
私が悪いから
彼は何も悪くないから
路上ライブが終わると彼は
バンドのメンバーの女の子と
夜の輝く街へ消えていった
その背中を私は黙って見ることしかできなかった