木蓮某日日記
某日。
私にとって春の色は、薄桃色だった。梅や桃や桜のやわらかい色。
しかし、10年ほど前、アメリカに住んだときに黄色が加わった。
ミモザや名前を知らない花の黄色が西海岸の乾いた日差しに眩しく輝き、光があふれているみたいで、生命が動き出す喜びを感じた。
最近では、薄い群青色が加わりつつある。
ネモフィラを庭に植えてみたら、凜としつつも優しい青が春の空の色と重なって、忙しい季節の気持ちをふんわり和らげてくれて。
また数年したら新しい春の色が加わるのかもしれないな。
某日。
湯島から谷根千のあたりを散歩する。
学生時代から好きなエリアで、都内から離れた今も近くに寄ることがあれば多少無理をしてでも足を伸ばしてしまう。
昔好きだったけどもうなくなったカフェ。友達と花見をした公園。夫と歩いた道。最近新しくできて好きになった店。そこここに好きなものと特別な思いが残っている町。
上京したての頃は、全然知らない土地だったのに、今では過ごした時間が地層のように降り積もっていて、大事な場所になっている。その嬉しさを噛み締める。
某日。
子どもの春休みが近くなり、給食なしで早上がりの時間が増える。
子どもが家にいえる時間が増えると、それだけイレギュラーな対応が発生するのでイライラすることが増えてしまう。
最近些細なことで不機嫌になってしまう自分を自覚して落ち込むが、仕方ない。
寒暖差のせいとか気圧のせいとかにしてみたり、、ひとりの楽しみの時間を持ってみたり、ガス抜きをしつつ、やり過ごせたら。
木蓮。
白い木蓮が好き。かたいつぼみがゆるんで、ふんわり花開く様は幽玄という表現がぴったり。
木蓮を求めて近所を歩きながら、22年に書いた近所の白木蓮の喪失から立ち直れていないことに気づく。