「何か」に縋りたいときほど。
「もうどうしたらいいか、わからないんです。」
髪をガシガシとかきあげ、うーんと唸る女性。
クラスメイトが、誰よりもわかりやすく、先生に助けを求めている。
「⚪︎⚪︎先生は、こっちの方が良いと言ったし、自分はこうではないと思うし…」
授業は何人かの先生が曜日ごとに担当をしている。水曜日の先生と木曜日の先生のふたりに相談し、それぞれの意見をもらった。それが女性の求める回答ではなかったようで、どんどんと深い瞑想の世界に入っていった。
先生が言った。
「意見として一旦受け止める。取捨選択は自分でする。」
ハッとした。
明らかに第三者の私。ついつい聴こえてくる会話に聞き耳を立てていた。
「取捨選択」
自分で選択して、自分で行動する。うまくいったら行いのおかげ。自分を褒めたり、周りに感謝をしたり。うまくいかなかったら自らの行いのせい。決して誰かを責めたりはしない。
これは、日常のこと。大人になれば尚更のこと。
・
人生を生きるたびに、次から次へと悩みごとは湧いてくる。
ぐるぐるぐるぐる。
頭の中を掻き乱す。ああでもないこうでもない。
何かきっかけがあればなあ。もう誰か決めてくれたらいいのに。
考えることを放棄して、藁にもすがる思いで脳内を駆けめぐる。
あの人なら何て言うかな、と。
そういうときって、ちょっと危険。
あの人の意見を訊いてみた。うーん、ちょっと違うかも。
じゃあ、別のあの人に訊いてみよう。え?私否定された?
あの子ならわかってくれるはず!あ、最近忙しいんだね、じゃあしょうがないね。
…
「あなた困ってますか?」
どこからかそんな言葉が聴こえてくる。
「はい!私困ってます!」
「あなたは運がいい。
この壺を買うと、すべての悩みが解決します。」
「壺…」
…
「そのままの君でいいんだよ。」
甘い言葉が心に染みる。そっか、このままでいいのか。何も決めなくても、変わらなくても、ずっと。
「あなたが言うなら。」
誰かにそう言って欲しかった。でもいいのかな、このままで。
「あなたがこのままでいいって言ったから。」
「そんなこと言ったっけ?」
あれ、聞いてなかったのかも。
…
もちろん、信頼している人に悩みや自分の考えを聞いてもらうのはいい。すっきりするし、話ながら気づくこともあると思う。
でも、ぐるぐるしたままのものを相手に投げて、聞く側も一緒にぐるぐるしたらどうだろう。
一緒に困ったね〜と言い合うことになったり。
それらしい言葉をかけてもらったり。
意見や指摘をもらえたとして、受け取る側の器は備えているだろうか。心ここにあらず、では響くものも響かない。
煮詰まっているときほど、視界が狭くなる。
器は小さくなる。
・
「もう一度、考えてみます。」
クラスメイトは言った。
トレース(見本と同じものを作成すること)は誰よりも早い彼女にも、苦手なことはあるらしい。それを知って、ちょっとだけ安心した自分がいた。
ぐるぐるしながら集中して、たまには空を見上げて日差しを浴びて。
考える時間、考えない時間を繰り返して、
少しずつ向き合う。正面から横から後ろから。
そしたら、
縋ることすら、忘れてるはず。
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