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喫茶ルノアールの日常。
土曜日の朝。
めずらしく午前中から予定が入っていた。
あわてて身支度を済ませて家をでる。
電車に揺られ、目的地に到着。用事を済ませる。
ぐう〜
午前10時。バナナで誤魔化していた胃袋が喚き出す。よしよし、何か美味しいもの食べようね。と言ってお腹を宥める。
「あ、ルノアール」
ここに入ろう。
普段使いにはちょっと背伸びするような喫茶店。けれど、外出先の、それに土曜日なら、いいかなと思える場所。
関西に住んでいた頃、何かのクイズ番組で「ルノアール」という名前を初めて聞いた。出演者たちは、そのとってのおきの喫茶店が街にあることが日常で、”どこにでもあるもの”と認識していたことには驚いた。
だって、ここ、関西にはないんだもの。
関西では流行らない、のだろう。ちょっとお高めの珈琲にレトロな店内。落ち着いて時間を過ごせることが魅力のひとつではあるが、おしゃべりを愛してやまない関西人からしたら、うーん、ここじゃない、となるのかもしれない。
というのは、私の勝手な見解である。
というわけで、よそ者の私は、東京に来て訪れる先に「ルノアール」があることに真新しい気持ちになったのだ。そのロゴを見るたびに「ここは東京なのだなあ」と実感をする。
名古屋であれば、コメダ珈琲で小倉トーストを食べるぞ!と意気込むのと同じように、私は東京でルノアールにいる時間を特別なものと位置付けている。
さて、つべこべ言わず、モーニングだ。
時間的には、ブランチ、というべきなのだろう。
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➕80円でトーストモーニングがつきます♪
サンドイッチのお得なメニューも魅力的だったのだが、ここはスタンダードなトーストをいただく。
肉厚のトーストに、固茹でのゆで卵。
たっぷりタプタプのコンソメスープが朝の体に染みわたる。
ずずず
「うまい!」
シンプルで裏切りのないスープのお味に、信じられないくらいにふわふわなトースト。控えめなバターと素朴な味わい。
これはうっかり毎日きちゃうやつだ。と突然の出会いにドキドキしてしまう。
ふわふわパンとあつあつスープ、それに卵をゆっくりと味わいながら、満たされた気持ちに浸っていると、
「大きいお皿おさげしますね」
と店員さんがすっとお皿を片してくれた。
かと思えば、続いて、
「こちらよろしければどうぞ」
とあたたかい緑茶を出してくれた。
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京都であれば、「ぶぶ漬けどうどす?」と言われるようなニュアンスなのかしら、とハッとするのだけれども、
ここは、東京。
親切心をそのまま受け取る。
私には、何かと深読みをするクセがある。
よく言えば、洞察力があるとか、探究心があるとか、そういう言葉で置き換えられるのだけれど、
日常生活で気にすることが増えてしまうと、メソメソしたり気を揉んだり、自分の扱いが厄介になる。
「これはこんな意味があるんじゃないか」
「この発言の本質はどうなのか」
「この行動には何が潜んでいるのか」
などと、ひとり哲学論争を繰り広げているなか
とき折り夫にもその心の意を打ち明ける。
すると、
「何にもない、ってこともあるよ」
と返ってきた。
はっとする言葉だった。
考えや行動のすべてに意味があり、それを知りたいと奮闘する毎日に、すっと別のルートを導き出してくれる、そんな発想だと思った。
考え続けることはいいことだ。
やめたくはない。いろんな道がひらけて、それが楽しみにもつながる。
けれど、たまには考えない。を選択する。
感じたまま、与えられたまま、受け取る。
そして、感謝を伝える。
こんなことがあってもいいのだ。
「ありがとうございます」
あたたかい緑茶を啜りながら、今日はいい日だなと耽る。
東京と喫茶ルノアール。そして、私たち夫婦。
いろんな日常をつくっていこう。