『サバイバル線快速 東京行』
ぎゅううううう。うう。う。
朝。通勤ラッシュが、東京を活気づける。
鉄製であろう規定のハコに、ぎゅうぎゅうに人が押し込められる。ちょっとした隙間があれば、まだ入ると希望を持って、もうひと推し!えいっ!と、人が押し詰められる。
ぎゅうううう。うううう、、、。
飽和状態は、、とっくに超えている。
電車は、次から次に来るけれど、やっぱりみんな朝は時間がなくて。少しでも早い電車に乗りたい、それが本音で、執念で。
この微かな吐息は、お隣の男性のもの。
この元気が出るような、音漏れは、手前の女性のものだろうか。わからない、もしかしたら、自分のものなのかもしれない。
誰の何の、ものなのか、その境目が曖昧になる。
今朝のニュースを、片手で器用にチェックする、あのサラリーマン。
読みかけであろう小説の世界に、早く浸りたくて仕方ない、あの文学少女。
もう諦めたよ、と箱の角あたりをぼうっと眺める、このわたし。
みんな、それぞれ、必死に、個人のあるべきゾーンを守ろうとする。そんなの、とっくに崩壊していて、プライバシーは惜しみなく、晒されるのに。
頑丈な箱の蓋が空き、人が外へと押し出される。
降りたい人も、そうでない人も、一旦みんな箱の外側。
我先にと、先ほどまで隣にいたあの人もこの人も、別々の世界へ進む。
駅のホーム。
たくさんの人が行き交っているのに、不思議と、誰ともぶつかりはしない。
みんな先を急いでいるのは確かで。
けれども、決して、衝突事故は起こさない。
あ、うんの呼吸で、
「私は右に、あなたは左にね。」って、すうっとすれ違う。
非言語コニュニケーションが、緩衝材となり、自らの身をふんわりと守る。
誰かと誰かの、目に見えない会話が生まれ、何事もなく、すうっと過ぎ去る、この瞬間。
ここで、誰かと誰かがぶつかってしまえば、ぱりんと音を立てて、砕け散るかもしれない。
朝の時間は、誰だって急いでいて、忙しなくて、余裕がない。もし砕けてしまったら、何かが変わってしまう、ことだってある。
的確な言葉ではない、この曖昧さが、か弱くて、時には頼りない。
狭い世界に、ぎゅうぎゅうに箱詰めされて、
私たちは今日も己の居場所へと向かう。
いつの間にか、プログラミングされてしまった、この不確かなセンサーを頼りに、
一歩一歩ちから強く進む。
既成のブリキ製の入れものに、お砂糖でおめかしされた焼菓子たちが、
ぎゅううっと、色鮮やかに敷き詰められている。
東京と、私たち。
入れものみたいに、窮屈なんだけど、自由で。
焼菓子みたいに、繊細なんだけど、華やかで。
そんな自分を、みんな必死で守っているように、感じた。
ーーー
*あとがき*
ここ最近、ちょっと私用で、通勤電車に乗ることになりました。
東京の電車は容赦ないです。定刻通りに発車が厳守です。普通にドアに挟まれます。危ないのです。
みなさん、お気をつけて。
良い東京ライフを🚃