日常に宿る、エレガンス。
ゆらゆらと揺れる、小ぶりのピアス。
お手入れが行き届いた革製のカバンと靴。
本のページをめくる、すっと伸びた指先。
はっと何かを思いついた、確かな視線。
日常には、こんなにも美しさで溢れている。
言葉では語らない、その瞬間に宿るもの。
見る人によっては、言葉にしてみたり、心が満たされたり、するかもしれない。
全ての人に感じる美しさ、というよりも、その人のその瞬間だからこそ、美しさを感じる。
それぞれが持つ、個性だったり、知性だったり。
過ぎ去る瞬間に、見えたり見えなかったりするような。もう一度見てみたい、と感じさせるのが、より魅力的だったりする。
絵画、は多くを語らない。
実際には何も語らない、が正しい。
作品があって、画家と描かれた時代の情報がある。そこに作品名が添えられている。
タイトルは至ってシンプルなことが多い。男か女か、食べ物か植物か。それがわかるくらいの控えめなワンフレーズ。
「綺麗な色遣いだ」「迫力がある」「このふたりは夫婦なのかな」と対話を重ねて、想像を膨らませる。ときには時代背景と照らし合わせながら、関連作品と比較をしながら、ヒントを探る。
”きっと”、が自分の中に生まれる。
きっと、この色遣いは流行によるもので、この迫力は時代への反発で、このふたりは夫婦に違いない、などと、ひとつの正解のようなものに辿り着く。
あっているかどうか、情報をなぞり、納得をする。
本当のところは、”正解”は求めていなくて。
いくつかの情報と結びつけて、それらしく解決させたい。そうでもしないと、腑に落ちないし、納得できない。どこかに辿り着けなければ、ずっと彷徨うような気がしてならなくて。
ある日、はっと気づく。
あの絵画には、こういう想いが込められているんじゃないかと。
ふわっと乱れる、スカートのひだ。
汚れのない透き通るメガネのレンズ。
コーヒーカップを持ち上げる、指先。
日常に触れて、あの日の美しさの意味に気づく。どこかへ飛んでいってしまうくらい儚い、想い。
永遠じゃないからこそ、美しいのだ、と悟る。
はっと何かを思いついた、確かな視線。
その瞬間にこそ、エレガンス、が宿る。
目で捉え、心で感じ、頭で巡らせる。
この瞬間を逃しはしまい、と何度も重ねる。
美しさを美しいままに、
大切に心にしまっておく。