【一駅日記】丁寧に ー 2024.08.13(火)
深呼吸をしながら陽射しを浴びる。
右腕に当たった陽の光はほんのりあたたかい。
空調が効いているから、ほんのりで済んでいる。
日記を認め、息を整え、スプライトを一口。
丁寧に揚げられたフライドポテトを、丁寧に手に取り、丁寧にケチャップを掬う。
こんな、深呼吸をする時間を取れていなかったなと気がつく。
仕事が丁寧すぎるから、もっと雑に働けと上司は言う。
しかし私は知っている。
雑に働いた場合に発生した損害の責任を取るのは上司ではない、私だ。
いつだって、何も事故が起こらなかった時の評価はされないものだ。
評価を受けるためには、何かを起こさないといけない。
健康診断に行ってきた。
ロッカーで着替えて、リュックを漁るとメガネがない。
職場に置いてきた。
裸眼で視力検査をしたとて、見えるはずがない。
丁寧に答えようと、目を細めてみたものの、見えない。
10年前まで2.0あった視力も、今や0.1。
パソコンを使わざるを得ないこの社会で、
視力の低下には何かしらの保障をしてくれても良いんじゃないのか。
これだって障害と何が違うんだろう。
なんてことを考えながら、採血、心電図、X線と続く。
ここのクリニックは健康診断特化なのだろうか。
検査が終わって、部屋を出ると、もう別の看護師さんが私を待っている。
受付に立ち寄ってから10分。もう全ての検査が終わった。
ちょっと雑な感じはあるよね。
スムーズで待ち時間ゼロなのは最高なのだけども、もう少し「診てもらってる感」が欲しいよね。
なんて、私のイチャモンが無駄な考えだったと気づくのは、最後の問診で入った診療室2番でのこと。
心音を聞き、聴診器を首に掛け直した先生が、ゆっくり丁寧に言葉を並べる。
「えーっと、これが緑のパンダさんのレントゲンです。
これが肺で、これが心臓です。
ここにあるのが肋骨で、細かいのが肺の血管。」
こんなに、丁寧にレントゲン写真を説明されたのは初めてだった。
確かに、いつも、自分の身体が透かされたモノクロの写真は見ていたけど、これが自分の心臓で、自分の骨だって認識して見たことはなかったかもしれない。
自分の身体だけど、これを自分の身体だと認識することって難しいことなんだな、とか、まるで賢くなったかのように思い込む。
「左の肺に、影のようなものが写ってるんですよね。
これが前回で、こっちが今回のレントゲン。
お若いので、これが何かであるといった可能性は低いかもしれません。
ただの血管の集まりが、たまたま塊のように見えるだけの可能性もあります。
安心するためにCTを撮りましょう。」
説明されていたのは自分の身体の構造の話ではなくて、自分の身体に起きていることの話だった。
丁寧に、丁寧に、私が言葉を噛み砕けるように、遠回りをしながら、歩調を合わせながら話をしてくれていたのだろうな。
深呼吸がしたくなった。
帰り道、フレッシュネスバーガーを見つけた。
席に座り、クラシックアボカドチーズバーガーを待つ。
ゆっくり、陽射しが私の身体に降り注ぐ。
また、私の人生に分からないことが増えた。
今日はそんな1日。
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