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医療機器のHFE/UEに関する書籍

こんにちは。ミドリサーチの人です。以下の会社のブログでは、医療機器のヒューマンファクター/ユーザビリティエンジニアリングに関する書籍を幾つかご紹介しました。ここではそれらの書籍について少し補足を述べたいと思います。

日本には、一般向け製品の「ユーザビリティ工学」「人間中心設計」「UXデザイン」「デザイン思考」等に関する書籍は多数存在しています。『ユーザビリティエンジニアリング』という言葉だけを聞いて、医療機器のユーザビリティエンジニアリングも一般向け製品のユーザビリティエンジニアリングと同じだと勘違いして、それらの「ユーザビリティ工学」「人間中心設計」「UXデザイン」「デザイン思考」等の書籍だけを参考にしてしまうと如何に別次元に辿り着いてしまうか、ラッキーな人なら米国FDA申請を目指すような当事者にならなければ気づくことはないかもしれません。

医療機器のヒューマンファクター/ユーザビリティエンジニアリングをするのであれば、日本語で存在している「ユーザビリティ工学」「人間中心設計」「UXデザイン」「デザイン思考」等の書籍ではなく、まずはこのブログで紹介するような医療機器のヒューマンファクター/ユーザビリティエンジニアリングに関する書籍等を読むことを私はお勧めします。


Applied Human Factors in Medical Device Design

Edited by: Mary Beth Privitera
https://www.sciencedirect.com/book/9780128161630/applied-human-factors-in-medical-device-design

この本は、University of Cincinnatiの教授であり、業界の最前線に立って医療機器へのHFEの適用を推進してきた専門家の一人である、Mary Beth Priviteraさんが、AAMIのHuman Factors Faculty メンバーたちと共に書いた医療機器のヒューマンファクター/ユーザビリティエンジニアリングに関する教科書的な書籍です。数年前に発行された書籍のため、この書籍の中で紹介されている規格やガイダンスの幾つかは新しいものに置き換わっていますが、それでも医療機器のHFE/UEの全体像や考え方を網羅的に理解することができ、またそれぞれの段階で用いる "tools"を理解することができます。この分野のテキストブックとして、ぜひ一読いただきたい書籍です。

Contextual Inquiry for Medical Device Design

By: Mary Beth Privitera
https://www.sciencedirect.com/book/9780128018521/contextual-inquiry-for-medical-device-design

この本は、Mary Beth Priviteraさんの著書で、医療機器の開発におけるコンテクスチュアルインクアイアリー(Contextual Inquiry)の事例が紹介されている本です。Contextual Inquiryは、医療機器の使用方法を理解し、より良い製品を開発するために役立つ手法です。この本では、事例を用いて、その概念と応用を説明しています。この本の中で出てくるケーススタディでは、日本での調査も紹介されています。せめてこの日本の医療機関も実際に靴を脱ぐ環境で行うべきだったのになと思うような写真もありますが、どういう考えでこういった調査を行うのか参考になるかもしれません。


Risk Management: How to Assess and Control Risk Related to Human Error in Products and Systems

By: Edmond W. Israelski, William H. Muto
https://www.hfes.org/Publications/Books/Risk-Management

この本は、元AbbVieのIsraelskiさんと元AbbotのMutoさんの2人が書いたリスク分析に関する書籍です。米国人間工学学会 (HFES)の書籍の1つとして出版されている本です。医療機器のヒューマンファクター/ユーザビリティエンジニアリングでは、使用に関するリスク分析を実施することが求められますが、この書籍では具体的なそのやり方が説明されています。一般的に、医療機器業界では国際的にはFDAが推奨するURRAやuFMEAを用いている企業が多いと思いますが、日本のメーカーは未だにそれらでもないリスク分析を用いているケースも見られます。使用に関するリスク分析の考え方ややり方に悩んでいる企業にはぜひこの本を読んでいただきたいです。


User Interface Requirements for Medical Devices: Driving Toward Safe, Effective, and Satisfying Products by Specification

By: Michael Wiklund, Erin Davis, Alexandria Trombley
https://www.routledge.com/User-Interface-Requirements-for-Medical-Devices-Driving-Toward-Safe-Effective-and-Satisfying-Products-by-Specification/Wiklund-Davis-Trombley/p/book/9780367457471

この本は、Wiklundさんらが書いた医療機器のUser Interface Requirements (UIRs)に関する本です。62366-1規格に基づくユーザビリティエンジニアリングでは、ユーザーインターフェイス仕様を作成する必要があり、その中で「ユーザーインターフェイスに関連する試験可能な技術的要求事項」を定める必要があります。日本語だと、requirementsという概念が「要求」や「要件」と異なる言葉にぶれて翻訳された背景から、特に日本市場しか知らないソフトウェア業界等では「要求」と「要件」は違うものだと理解されていたりするようですが、英語の規格で定められているこの医療機器の規格で言っていることは、そうだとするとユーザーインターフェイスに関する技術的な  "要件” を定めることなのかもしれません。UIRsとは具体的にどういうものなのかについては、ぜひこの本を読んでみてください。


Usability Testing of Medical Devices - Second Edition

By: Michael E. Wiklund P.E., Jonathan Kendler, Allison Y. Strochlic
https://www.taylorfrancis.com/books/mono/10.1201/b19082/usability-testing-medical-devices-jonathan-kendler-michael-wiklund-allison-strochlic

この本は、Wiklundさんらの医療機器のユーザビリティテストに関する本です。医療機器のユーザビリティテストをするのであれば、一般向け製品やサービスのUXデザインにおけるユーザビリティテストに関する書籍ではなく、この本を読むことをお勧めします。この本は中国語にも翻訳されているようですが、残念ながら日本語には翻訳されていません。規格やガイダンスにおける試験のやり方だけではなく、医療機器のユーザビリティテストの考え方や注意点を理解することができます。HFEガイダンスや62366-1規格で定められた医療機器のユーザビリティテストを実施したいのであれば、数多くの日本語の書籍で説明されているようなUXデザインにおけるユーザビリティテストのやり方を適用することはお勧めしません。


Medical Device Use Error - Root Cause Analysis

By: Michael Wiklund, Andrea Dwyer, Erin Davis
https://www.routledge.com/Medical-Device-Use-Error-Root-Cause-Analysis/Wiklund-Dwyer-Davis/p/book/9781498705790

この本は、WiklundさんらのRoot cause analysis (根本原因分析) に関する本です。医療機器のユーザビリティテストで見られた使用問題は、その根本原因を明らかにする必要があります。62366-1規格においても「製造業者は,総括的評価のデータを分析し,発生した全ての使用エラー及び使用の困難さを特定する。使用エラー又は使用の困難さが危険状態につながることがある場合,そのような使用エラー又は使用の困難さの根本原因を決定する。」といったことが書かれてあります。ユーザビリティテストの最後に実施する被験者への根本原因確認のためのデブリーフィングのやり方や、根本原因の特定の仕方等について理解したい方は、特にこの本を読むことをお勧めします。


Writing Human Factors Plans & Reports for Medical Technology Development

By: Michael Wiklund, Laura Birmingham, and Stephanie Alpert Larsen
https://array.aami.org/doi/abs/10.2345/9781570206894.ch1

医療機器のヒューマンファクター/ユーザビリティエンジニアリングを初めてするにあたり、困ることの一つが文書化ではないでしょうか。QMS活動に含まれるこれらの活動は正式に文書化することが求められていますが、全く初めてやる会社等にとっては、何をどう書いたら良いのかも分からないこともあるかもしれません。この本は、AAMIが発行しているHFE/UEに関する計画書や試験のプロトコル、報告書等の記載例が記されている書籍です。医療機器のユーザビリティテストのプロトコルや報告書というのはどういうものなのか一例を見ることができると思います。これらをご覧いただくと分かる通り、一般向け製品やサービス会社の社内UXリサーチャーが書くようなUXデザインのユーザビリティテストの計画書や報告書とは大きく異なるものだということが分かるかもしれません。臨床研究や治験のリクルートを手伝う市場調査会社の人々ですらこう言います、医療機器のヒューマンファクター/ユーザビリティエンジニアリングのユーザビリティテストのプロトコルは「まだそっち(臨床研究や治験のプロトコル)に近い。」と。

まとめ

医療機器のヒューマンファクター/ユーザビリティエンジニアリングに関する日本語の情報は非常に限られています。残念ながら、ここで紹介した書籍は全て英語の書籍です。言語の問題で知ることもできないのであれば、場合によっては「知らぬが仏、知るが煩悩」なのかもしれません。でも自動翻訳等が発達した今、デジタルで書籍が読める今、知らないで幸せでいるということもその人の選択なのかもしれません。ここで紹介した書籍以外にも様々な書籍や文献等が出ています。せめて、この分野の規制当局、この活動を行う当事者、そしてこの分野に少なからず興味を持ってくださった皆様には、ぜひ知っていただけたらと個人的には思います。

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