『チメイタンカ』
『チメイタンカ』読了。今年50歳になる方々の作品集で、同名のフリーペーパーの発展形です。参加メンバーの作風は全く違うものの、どの作品もしっくりと読みやすいのは、私も同年代だからかも知れません。巻末の「25年前のことをとーとつに語るスレ」が懐かしい雰囲気です。好きな短歌を紹介します。→
母が父をわるく言うとき半分のわたしが夏の日差しに溶ける
夏の呪文のようにつぶやくタフラブはtough love見放す愛というなり
井上久美子さん「タフラブ」より(『チメイタンカ』)
火の中に溶かしてしまった銅板の花は傷にて描かれた花
高架ゆく貨物列車に荷はあらずときおり街の灯りを乗せる
遠藤由季さん「傷で描かれた花」より(『チメイタンカ』)
シュタイナー、あなたが約束だと思う方を噛んだら帰っておいで
カーテンのひだに隙間のある影を秘密と呼んでなめらかな午后
佐藤えりさん「約束/秘密」より(『チメイタンカ』)
フレッシュな服に囲まれて春のGUで頭を抱えたよ昨日、靴まで売ってた。
パチンコ屋に父から呼び出されたのち、二千回回った台に座らされる
しんくわさん「しんくわ50首」より(『チメイタンカ』)
泣き声はこらえれば汽笛の音に似る水のそばならなおふさわしい
だれかまた愛するだろうか真夜中のうでの内側こんなにきれい
髙橋小径さん「思惟 - mein Gedanke -」より(『チメイタンカ』)
インスタのすべてにいいねを押してゆく苺の飴を配るごとくに
教会の扉の隙間小さきをステンドグラスは朱色に照らす
竹内亮さん「シンギュラリティ」より(『チメイタンカ』)
「幼稚園で風つくった」とカバンから水色テープの束が出てくる
英国の戴冠式の馬車はゆく波立つ過去を踏みならしつつ
田中泉さん「風」より(『チメイタンカ』)
均一の安居酒屋に食みたりし目玉焼きありおいしかったな
褒められたい人がお金と引き換えに褒められていてそれはまあよし
富田睦子さん「ひかり」より(『チメイタンカ』)
モモ肉に残る軟骨削ぎおれば正しさの意味を背後に訊かる
ビニールシートに集いてもの食う人々の 花衣とう言葉のよろし
永田淳さん「飲食の歌」より(『チメイタンカ』)
一さうのふねよぎりたるみづのうへことばみだされやまぬ晩春
つひになにもつかめぬままの手をひらく ほの、と明けゆくひむがしのそら
花笠海月さん「とある」より(『チメイタンカ』)
塩湖へと放たれる魚もう既に起きた奇跡に興味はなくて
葉の落ちた冬の林のあかるさで僕らの前に長い余生が
松野志保さん「縦深陣地」より(『チメイタンカ』)
ショッピングモールの灯り次々と消えて惰性で人を恋う日々
出奔の知らせにたちまちひらきゆくヤマユリの香を恋いて眠れず
吉村実紀恵さん「万華鏡」(『チメイタンカ』)