梶原さい子著『落合直文の百首』
梶原さい子さん著『落合直文の百首』読了。ふらんす堂歌人入門シリーズ7冊目です。落合直文については、以前『萩之家歌集』収録の好きな作品を紹介したので、今回は、前回採り上げなかった作品の中から好きな歌を紹介します。ちなみに『萩之家歌集』の感想はこちらです。
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夕暮れを何とはなしに野にいでて何とはなしに家にかへりぬ 梶原さい子著『落合直文の百首』
梶原さんが「この何もなさ加減こそ、とても豊かだ。」と書いています。現代の歌人(少なくとも私)は無駄を省いてその分情報を入れようとしがちで「何とはなしに」とリフレインする勇気は出ないでしょうね
ちる花のゆくへいづことたづねればただ春の風ただ春の水 梶原さい子著『落合直文の百首』
こちらも情報としては大したことは言っていないのですが、春の桜と水という題材の美しさと、「ゆくへいづこと」の助詞の省略や後半の対句による韻律により、切ないほど美しい作品になっていますね。
萩さける堤にわれをのこしおきて水はひがしへ人は南へ 梶原さい子著『落合直文の百首』
梶原さんの「東も南もまぶしい方角だ」の文に大いに納得しました。三句目「て」を入れて字余りは、現代の歌会に出したら貶されそうですが、これによっておおらかで堂々とした作品になったように感じました。
さびしさに椿ひろひて投げやれば波、輪をなせり庭の池水 梶原さい子著『落合直文の百首』
梶原さんは、椿は白でもいいかも知れないと書いていますが、私はやっぱり赤だと思います。冬の終わりの寒々しい池に赤椿がかすかな音を立てて落ち、そこから水の輪が広がってゆく光景と読みたいです。
をとめ子が泳ぎしあとの遠浅に浮輪の如き月浮かびきぬ 梶原さい子著『落合直文の百首』
梶原さんは直文の従兄弟、洋画家布施淡の影響に言及していますが、絵画的というか時間経過を伴った映像的な作品。もういないをとめ子の肢体と月の白さが重なりますが「浮輪」にとどめたのが上品ですね。
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