平出奔歌集『了解』」「そのひとからフォロー外された通知がきて、突然だったけど全然びっくりしなくて、あー、了、解です。と思った」

 「『隣に座ってるお姉さんいい匂い』って投稿するのがTwitterで、『私事ですが結婚しました』って投稿するのがFacebook。『お空綺麗』って写真を上げるのがインスタ」は、主要なSNSの違いを説明した有名ツイートだ。対外的に重要なライフイベントや人目を引く美しいものとは距離を置き、どうでもいい呟きを誰にともなく垂れ流すTwitterの特性をよく言い当てていると思う。『了解』を読むにあたり、SNSに馴染みのない方も、主体はTwitterタイプであることを押さえて欲しい。

   終電の一本前で座ってる誰もを僕と呼べそうだった

   つらかった、とかじゃなくすごいふつうに、死のう、な時期に食べていたも
   の

 深夜の電車に乗っている疲れ切った人々と主体との境界があやふやな一方で、日常的に死ぬことを考えていた時期を他人事のように何の感情も交えずに振り返っている。私は、この距離感は、自分の感情を一四〇文字以内で呟くTwitterユーザーの客観性だと感じた。

 この歌集には短歌研究新人賞受賞作である「Victim」も収録されているが、重点が置かれているのはタイトルともなっている「了解」の章の二つの連作だろう。作者のツイートや呟かれることのなかった下書き、Twitterで起こった出来事等を詞書として挟み、大事件で再起不能になるわけでもなく、かと言って満たされているわけでもない日々が詠われる。

   次の会ったら言おう、で送るのをやめた全部が残ってる夏の夜

   友達だけど会ったことない友達のブログにいつもあるいつもの病院

   薔薇をくれる「あなたはあなたのためにだけ生きていなさい」は〜い、でも
   らう

 一首目は詞書を読むと、相互フォローの誰かが相手を明言せずに批判(つまりエアリプ)し、主体はそれを自分宛の発言だと認識して言い返そうとしかけて思いとどまったことが分かる。ネット上ではなく直接会って話そうと思ったが、会うことはなく、Twitterには書きかけの下書きだけが残った。

 二首目はブログを読んでいるが、「友達だけど会ったことない友達」とあり、Twitterで知り合った相手である可能性が高い。身近な人間には言えないようなことだからこそ、インターネット上では言えてしまうというのも現代的な人間関係の特徴である。
 三首目の「薔薇」は短歌投稿サイト「うたの日」で投票を多く集めた歌に付けられる花のマークだと思うが、批評なのか暴言なのか分からないコメントも「は〜い」と甘受する。

   アイコンのいらすとやの犬、既視感の先に仲良くなれなさがある

 「いらすとや」は有名なイラストサイトで万人受けする絵柄が特徴であるが、公開されている膨大な画像を誰でも無償で利用できるので、Twitterユーザーが自分のアイコン画像として使用している場合も多い。ちなみに、平出奔氏自身も、一時期、Twitterのアイコンに「いらすとや」の犬の絵を使っていた。その一般大衆の象徴であるような「いらすとや」のイラストをアイコンとする人物に、主体は一般大衆である自分の姿を見出し、だからこそ「仲良くなれなさ」を感じている。 
 Twitterの関係は希薄でどちらかがアカウントをブロックすれば終わる。それでも、少しずつ確実に傷ついているに違いない。

   僕に見えるこの僕みたいな人生をあなたなら続けられたんですか


 

 

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