#5 デートの予定“だった”休日に
この週末は君と会う約束をしていた。少し前に君に別れを告げられるまでは。
どこで何をするかまできちんと決まっていて、しかも日付を決めたのは5ヶ月くらい前の頃だった。その頃から君と見る紅葉を楽しみにしていたから。
だけどそれは叶わなかった。
私の目の前で、色付きながらも枯れ始めた木の葉が、くるくる迷いながら降りてきて、地面に落ちた。
たしか、去年、苦しいくらい好きになった人に想いを伝えて、その人と同じ気持ちにはなれていなかっのだと知ることになったのも、さらにその前の年に当時の恋人と別れたのも、秋だったなあ。
その時はどちらもかなり泣いて、ひたすらに悩んだものだったなあ。秋は今のところ、私にとっては別れの季節みたいだ。
君と別れることになったことで突然真っ白になった土日のスケジュールに、私は予定を書き込まずにはいられなかった。君と別れた次の日には、誰かと会う約束を入れてその土日を終日埋めた。寂しかった。それを誰かに埋めて欲しくて。「本当は今頃、君とあの場所で紅葉を見ている予定だったのに」なんて思いながら1人で噛み締めながら過ごせるほどの心の強さが、私にはなかった。君にもう会うことはないんだろうけど、「別にあなたがいないとダメなんてこと全然ないんだもんね」と示したくて。
真っ白だった土曜日の午前中は、行っても行かなくても支障をきたさない程度の集まりに顔を出すことにした。
だけど前日にうまく眠れなくて、具合が悪くて、朝一度、そこへ行くのに必要な時間に朝起きたのだが、どうにも身体が動かなくて、やめておこうと思い、不参加の連絡をしてもう一度眠りについた。もう一度起きた時、少ししか眠っていない感じがしたのでまだ少し寝るつもりで、一度水を飲みに起き上がった。しかし時間は意外にもお昼を過ぎていた。私疲れてるんだなあ。午前の予定はこの程度のものにしておいてよかった。そしてもしデートが予定通りあったとしても、私はやや無理をしていたかもしれないなとも思った。君と別れたショックをまだ引きずっている疲れもあるかもしれないけど、仕事も本当に忙しかったから。
休むべくして休むことになったのだろうと思うことにした。
午後は心を許す友人たちに会って、ゆったりとした時間を過ごした。仕事のことやこれからのこと、最近の趣味の話など、それぞれ色んな話をしたが、やっぱり、私のこういった今の事情も少し話すことになる場面があり、かなり慰めてもらうことになった。「その人、らてちゃんと別れたの後悔するよ」「見る目ないよ」「どんな人がいいの、紹介するよ」などと言ってもらえたことが、素直に嬉しいと感じた。
まだまだ私は幼いから、自分1人で自分を受け入れて認めて愛することで満足ということができなくて、やっぱりまだ、誰かにこうやって受け入れられることや愛情ある言葉をもらうことで、救われようとしてしまう。
悪いことではないんだけど、単純に、私ってまだまだだなあとは思う。でも今はそうなんだな、と、それをさらに俯瞰的に捉えて受け入れることにしている。
とにかく、土曜日は、君とのデートのメインになるはずだった土曜日は、優しい友人たちのおかげで、心が随分と満たされて楽しく過ごすことができた。
空っぽだった日曜日は朝から、いつもの友人たちと長い距離のランニングをする予定を入れた。秋晴れの中、びっしょり汗をかくまで、いつもより少しペースをきつめに上げて走った。風を切って、何かを振り切るように。しっかり息が上がるまで肉体を酷使すると、何だかいつもよりとても晴れやかな気持ちになった。
ランニングの疲れは寧ろ、私を癒してくれる。それは不思議なことに、心が疲れている時ほど。
人が私を裏切ることはあっても、ランニングは私を裏切らないので、私にランニングがあってよかったと改めて思った。
その後流れでご飯をみんなで食べに行って夜まで過ごす予定だったが、行かないことにした。私は、もう充分に心が満たされていると感じたからだ。
そして今、ずっと気になっていたカフェに並び、1人で席につき、本を読んだり、コーヒーを読んだりしながら過ごし、これを書いている。
なんて穏やかな休日になったことだろう。
もし予定通りこの土日に君と紅葉を見に行っているなら、私は前日から気合を入れて色々と準備をしたりおめかししたんだろうけど、まあそれもしなくて済んだわけで、今の私なりの幸せを見つけて過ごすことができた。
この休日は、君がくれた最後のプレゼントになった。
君もどうかお幸せに。