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挨拶芸で生きていく(秘密麺歌倶楽部#3)
アラサーをアラフォーって言い直したら元気な呪いがピッチに入る/中森温泉
挨拶一筋40年
挨拶は排泄より大切(グループ魂©)とは、よく言ったものでございまして、だいたい挨拶さえできればなんとかなるわけであります。
知らない現場でも、でかい声であいさつしちゃえば、なんだこいつと思われながらも、まあだいたいうまくいくというのは、多くの社会人の皆さまにも肌感として共感いただけると思いますし、一方、それをナチュラルにできる人、演技としてできる人、ほんもののおかしい人がいたりしますので、私ナチュラルに挨拶するタイプですよ!葬式だったら小さな声で話しますよ!という雰囲気を出しながら挨拶をすることがビジネスや生活において重要となります。
あと万が一自分が犯罪を犯してしまったとしても、近隣の住民の皆様に、「しゃべったことはないけど、挨拶はちゃんとする人でした」とか、「威圧感のある見た目と違って、低姿勢でいつもあいさつをしてました」とか、「顔はブスだけど、挨拶はイケメンでした」とか、言ってもらえるくらいのおじさんでいたいと常々思っておるわけでございます。
そのメンタリティは、子どものころからで、小学生のときに、校長先生とのすれ違いざま、「おはようございます!」と模範囚のふりをしてあいさつをしたところ、校長先生が「お、元気がいいねえ。君は、サ行の発音が苦手なようだね。ことばの教室に通いなさい」と言われ、その日の午後には図書室に召喚され、口の中に割りばしをつっこまれたり、ウエハースを口の中に貼られて、サ行を延々と言わされるという拷問の挙句、サ行だけでなく、カ行もうまくいえないという残念なお知らせが発表され、海沿いの病院に連れていかれて誰の目も及ばないところで、一向に改善しない訓練を毎週ほどこされるというバッドエンドを迎えることもありました。
(その後、全く改善していないのに、1年後にことばの教室を卒業しました。風の噂で、小学校からことばの教室に通わせる人数のノルマがあって、人身御供にされていたというお話を伺いました。新潟初等教育の闇。)
とはいえ、事務屋稼業も二十年を迎えようとする中、事務屋界隈は圧倒的に元気に挨拶をできない人が多いので、逆張りとして、よかったのかなあと思う日々を送っています。
先日も、別業界・別地域で事務屋をやっている中学からの友人と飲んでいたところ、「役員に媚びを売っていると若者に馬鹿にされている」とか、「前向きな人間だと勘違いされて部門に落としづらい仕事を振られてしんどい」とか、全く共感しかない愚痴をこぼしあい、「誰でもできるけど誰もやりたがらない仕事をこなすことで、微妙に社内の立場をキープしていくしかない」という無間地獄のような結論に至り、おのおのの巣にお互いとぼとぼと還っていきました。
「おはよう」「ありがとう」「ごめんなさい」を躊躇なく言うくらいしか芸がなくて恐縮ですが、引き続きご愛顧いただければ幸いです。
ちなみに、先日、マンションのエレベーターで先に乗っていた小学生女子に挨拶をしたら、ガン無視されました。
そうだね、変なおじさんの挨拶はガン無視が正解だね、と弊マンションの教育水準の高さをひたひたを感じながら、私はきっと死ぬまで虚空に挨拶を飛ばしていくのだと、涙を目に溜めながら、錦鯉のつかみに元気をもらい、出社いたしました。
進化系家系ラーメン店で学ぶ至高のホスピタリティ
覚悟が決まれば、最高のあいさつおじさんになるため、最高のあいさつを学びに行きます。
修行先は、JR常磐線金町駅・京成金町線京成金町駅から徒歩1分のところにある三浦家さんです。
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こちらのお店は都内を中心にのれん分けで展開する武蔵家の総大将を務める三浦慶太さんが店主のラーメン店。
ラーメン自体が至高であるだけでなく、ホスピタリティあふれる接客に何度訪れても感動させられています。
この写真を撮った日も、小雨が降っていたのですが、外待ちのお客さんに傘をさっと貸してくれる光景が目に入り、入店前からホスピタリティの神髄を感じます。
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外待ちがあるときは、先にチケットを購入して列に並びます。
私が注文したのは、のり5枚、2種のチャーシューが1枚ずつ、味玉1ヶ、ほうれん草、燻製コマ切れチャーシューという豪華な布陣の上ラーメン。
待っているときにチケット回収があり、その際に麺の固さ、味の濃さ、油の多さの好みを伝えます。
また、こちらのお店はなんとライス無料・おかわり自由!
ライスの有無もあわせてお伝えします。
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入店後、先にライスが提供されたのですが、そのときに店主から「おかわりしてくださいね」と笑顔の声掛け。
おかわり無料とされつつも、忙しそうな店員さんを前に躊躇してしまうのが人の性。
そんな心の迷いをあらかじめ払拭してくれる温かい言葉に、心が震えます。
そして、着丼です。
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ああ美しい丼顔。
上に乗ったなるとは、名店中華蕎麦とみ田との絆から乗せられたものというサイドストーリーにラーメンオタクのミーハー心がくすぐられます。
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早速スープをいただきます。
濃厚ながらくどさのない至高の鶏豚骨スープに脳が揺れます。
そして、燻製コマ切れチャーシューの周りのスープは燻製の風味がしたり、奥に進めば濃度に変化があるなど、最後までずっと楽しめます。
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麺はもちもちの酒井製麺製のもちもち麺。
短めで歯切れもよく、夢中ですすっていきます。
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チャーシューは、肩ロースとももの2種類。
しっとりとして、肉のうまみが凝縮したチャーシューは、そのまま食べても、スープにひたしても、絶品です。
そして、上ラーメンに乗る卵は、ブランド卵「マキシマム濃い卵」。
店主のおススメは卵をまるごと一口で食べる贅沢食い。濃い黄身が口の中で溢れて、多幸感に包まれます。
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そして、家系に欠かせないライスは、卓上調味料を使って、アレンジ無限大。
私の好みは、一味の醤漬け、にんにく、しょうがをのせて、スープを2回しして、のりで巻いて食べるという保守的なものですが、自家製のお酢やマヨネーズなどを使って、オリジナルチャーシュー丼をつくるなど、無限の可能性に限界突破したホスピタリティが爆発しています。
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そうこうしているとあっという間に完食。
退店の際も、店主がしっかりと目を見ながら、「また来てくださいね。雨の中来ていただきありがとうございました。」と笑顔で見送ってくれます。
スーツ姿のお客さんには、「お仕事がんばってくださいね」と声掛けされるなど、マニュアルではない心からのおもてなしの言葉に背筋が伸びます。
行列必至の人気店ですが、至高のラーメンと至高をホスピタリティを是非体感してください!
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何度も見てしまう食べログはこちら!
YouTubeでは店主自らが解説してくれています!
秘密麺歌倶楽部
歌人・中森温泉が短歌とエッセイと秘密にしたいほどとっておきのお店をご紹介する連載。不定期更新のため、マガジンのフォローを是非。
筆者プロフィール
塔短歌会所属。短歌ラーメンニキ。
noteにて、初夏みどりさん、桜庭紀子さん、かきもちもちりさん、ぽっぷこーんじぇるさん、中森温泉の5人のメンバーが週替りで五十音順に一人の歌人、一冊の歌集を紹介する「短歌五十音」を週替わりで連載中。
元気な呪いの三百首はこちら。