塔2024年7月号気になった歌10首④
伝統行事の音楽がSpotifyから流れているという光景が現代的。忍ばされている「豊穣祭(さい)」と「Spotify(ふぁい)」、「山車(だし)」と「囃子(やし)」の脚韻のリズムが気持ちいい。歌のテーマが祭り囃子であること ともリンクする。
紙石鹸は石鹸を紙のように薄く伸ばしたもの。3句目以降の言葉には、主体とあなたとの間に距離が感じられる。主体は、とても薄く見える月を眺めながら、その絶対に縮まらない距離について思いを馳せているよう。
同学年でも誕生日の違いで少しの期間だけ年上・年下になることがある。逆光の中に腕が伸ばされるという情景が印象的。腕を伸ばしているのが誰なのかは明らかにされていないが、逆光の中でものは影になってしまうことを考えると、主体が友に対して何らかの劣等感を抱いていて、追いついても少しだけ離され、また追いついても離されるようなイメージが浮かんだ。
葉桜は桜の花が散って若葉が出始めた頃から新緑で覆われる時期までの桜。オフィスカジュアルという独特な社会人文化に慣れてくる時期と春の終わりの重なりが印象的。主体は、目まぐるしく過ぎていった社会人生活に慣れて、少しだけ余裕をもって周りを見れるようになったよう。
心臓のドナーになることができるのは、60歳くらいまでとのこと。ハツは、焼鳥や焼肉で提供される動物の心臓。ハツを食べながら、自分の年齢を考えるというのは、少しグロテスクな描写にも思えるが、一方でどこか吹っ切れたような印象もある。
建物の下の方に光のある場所があり、そこを眺めると重機を操る人の影がある。工事現場を見て歌われたものだろうが、煌々と光っていることと、いわゆる裏方仕事のような工事を行う人の影の描写の対比が鮮やか。
ビーフンの中にある少しコリッとした独特な食感のあるタケノコの根に近い部位を噛みながら、その歯が春を言祝いているのがユーモラス。食事の細かいところから春を感じる感性が楽しい。
写真に写るのは光の反射から生まれたものだけ。それ以外の例えば空気や臭いなど、そういったものは写真には残らない。一字明けの結句「冷たい雨の」に情感があり、主体は、写真には残っていない冷たい雨の記憶を残したかったのかもしれない。
怖い歌。いつも静かに鎮座している食器が、実は革命を夢見ているという。そうなるとこの台所は革命を目指す者たちのアジトであり、普段何気なく食器を使ったりしながら活動している私たち人間は、いつか突然武装蜂起した食器によって鎮圧され、処刑されるのかもしれない。なんとか命だけは見逃してもらえるよう食器は優しく扱うことにしたい。
好きな歌。主体は、自分の毛量がたくさんあることをすごく面白いことだと思っているんだけど、それをアピールすると白髪に目が行ってしまうという なんとなく情けないような着眼点が魅力的。
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