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塔2024年5月号気になった歌10首⑧

ビル群を使って風はみずからをくしけずりたり春にそなえて/杜崎ひらく

塔2024年5月号作品2

「くしけずる」という表現が印象的。厳しく刺すような冬の風が春に向かってその尖りを削っていくよう。またそれを削るのがビル群というところに都会の情景が浮かぶ。

素手で火を持っていたのかふかぶかと山は緋色の葉を積もらせて/松本志李

塔2024年5月号作品2

紅葉した葉が地面に積もっている山が浮かぶ。「素手で火を持っていたのか」という驚きをはらんだ気付きに美しい自然に対する深い造詣がある。「火」「ふかぶか」「緋色」「葉」というは行の重なる韻律もきれい。

駅前のインド料理店閉ざされてわたしの中のインドが欠ける/浅野美紗子

塔2024年5月号作品1

インド料理店は、インドそのものを構成しないのだが、主体のインドのイメージの中でしっかりとした構成要素になっていたのだろう。欠けてはじめてわかる存在感。ユーモアの中に、少し寂しさがある。

つけ麺は大盛りがいい満たされていまここにある胃の感触が/新谷休呆

塔2024年5月号作品1

そう、つけ麺は大盛りがいい。不確かで変化の多い時代だが、これだけは永遠に不変の真実である。麺をずばずばすする爽快感の先にある満腹は、文字通りの満腹で、胃が私の中にあることを確認でき、生きていることを実感できるのだ。つけ麺は大盛りがいい。そして、特盛りもいい。

娘ほど年の差のある人達と為すトレーニングいたはられつつ/田口朝子

塔2024年5月号作品1

健康を維持するための運動をしている主体。「娘ほど年の差のある人達」は、一緒に参加している人たちだろうか。自分の年齢が高いことで労られていることへの感謝とちょっとした気恥ずかしさを感じた。

誠実も卑劣もなくておのおのの窪におさまる十個の玉子/福西直美

塔2024年5月号作品1

いい歌。パックに十個の卵が入っているというだけの光景だが、「誠実も卑劣もない」という言葉がつくことで、途端に深みが出る。そして、その卵を食べる人間には誠実も卑劣もあるのである。

またひとり部署を去りゆき清流にのみ棲む魚の尾びれが光る/竹井佐知子

塔2024年5月号作品1

退職者があとを絶たない職場のようだ。その職場の比喩として「清流」というきれいな汚れのないものが提示されることで、その清らかさが相容れないものを排除することで生み出されているというドロドロとした人間模様が想起される。尾びれを光らせている辞めない人は、清流を守るため部外者を排除し続けるのだろう。

いずれ死ぬ人たちを乗せてひた走るのぞみ雨粒よじらせながら/王生令子

塔2024年5月号作品1

高速で走る新幹線の窓にはりつく雨粒がその速さに耐えきれず不自然な形によじれる。虚無感のある上の句とあわさって、諸行無常を感じた。

冬を呼び寄せるような雨のなかコンビニへ行く水を買うため/石橋泰奈

塔2024年5月号作品1

冬の予感をはらんだ冷たい雨の中、コンビニに水を買いに行く。「雨」「水」という重なるモチーフが印象的。下の句の倒置法により、「雨のなか」「水を買う」というイメージの重なりが浮き立つ。

パクチーも香辛料にも慣れてきてわたしの臓器が辛さを求む/大森千里

塔2024年5月号作品1

慣れは怖い。辛さの慣れの例示としてパクチーと香辛料が提示されているということは、唐辛子やわさびといったシンプル辛さは通り過ぎて、変化球にまで手を出しているのだろう。人の欲望は際限を知らず、主体は本能的にさらに刺激的な辛さを本能的に求めている。

辛さといえば、筆者からは、新橋にあるラーメン店Blood Moon Tokyo design noodlesをオススメしたい。
絶品の担々麺をいただける名店で、辛さとシビレを4段階までアップすることができ、濃厚なゴマの風味の中にピュアな刺激を好みの量で感じられる。
個人的におすすめなのは、追加料金のかからない辛さ2、シビレ2の担々麺。
濃厚な坦々スープに細麺がからみ、ピリッとした刺激を感じられる最高の一杯である。

坦々麺1,000円。ランチは、プラス100円で温玉飯をセットにできる。
新橋駅徒歩3分。路地裏の名店。


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