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逢坂みずき作品集「文芸個人総合4」感想
塔短歌会、仙台啄木会所属の逢坂みずきさんの作品集。
小説、評論、随筆、俳句、短歌という複数の文芸を収録。
個人的に、短歌だけでなく、小説やエッセイにも取り組んでいるので、興味深く、そして楽しく読みました。
boothにて販売中。
送料込みで350円は、大盤振る舞い過ぎです!
塔といふ結社にゐます、タワーの。と言ひつつタワーを形づくる手
話し相手にその人の知らないことを伝えるために、ジェスチャーを交える姿が目に浮かぶ。
連作になっていて、この歌に続く短歌には塔のメンバーの名前が多数登場する。
HIPHOPのネームドロップのごとく、リスペクトがありつつ人間味あふれる歌人の素顔の描写がおもしろい。
実験で死ぬビーグルのことを聞くきんもくせいの香りの中で
残酷な上の句と美しい下の句の対比が鮮やか。
動物実験のため、ビーグルが用いられ、実験のために死んでしまうことは、ときにセンセーショナルに事件化されて報じられることもあるが、主体がその話を聞いたシチュエーションとあわせて中立的に事実が詠まれることで、生命を犠牲にして、科学の発展を図っている事実が浮きたつ。
当事者じゃないからこんなふうに詠める国産小麦のパンかぶりつく
主体の冷静な描写がおもしろい。
一連のはじめの歌がややストレートな戦争批判になっているのと対照的で、人間の複雑な感情や立場に思いが至る。
蓮の葉を転がるしずく美味しそう
蓮の葉は、晩夏の季語。
水を弾く習性のある蓮の葉を転がる水のしずくが拡大されて見えるような自然の瑞々しい美しさに対して、「美味しそう」としているのが、人間味があってユーモアがある。
ジェンダーフリーとかジェンダーレスという価値観が広まりつつある昨今だが、男女の違いを認めることも、ある意味で多様性の一種ではないかと個人的に考えている。
随筆は、河北新報に掲載されたものに加え、書き下ろしのものもあってバリエーション豊か。
いずれも短めの随筆で読みやすく、逢坂さんの身の回りの出来事を起点に、ユーモアや少し考えさせられることが書かれていて、読後感のある文章を興味深く読んだ。
”邪念”が入らない歌が読者に好まれ、メインストリームとなる時代が来ているのかもしれない。
評論は、コンテンツとしての短歌とお笑いの類似点や相違点を比較し、読者やファンの志向の変容について興味深い論考をしている。
特に、ネットの動画視聴により芸人の深掘りが進むことのネタの評価への影響と、短歌について作者を知っていること/知らないことによる作品鑑賞への影響の比較について、興味深く読んだ。
東郷雄二さんの短歌コラム橄欖追放第339回「歌人の名前と匿名性と」が想起され、合わせて読むことをおススメしたい。
短歌における私性をめぐる変化を考える上で、逢坂さんの評論は、お笑いという異なるカテゴリーで起きていることと比較されることで、より考えを深めることができた。
(参考:橄欖追放第339回「歌人の名前と匿名性と」)
「それは申し訳ないよ。別に悪い人じゃないんだ。ただ、若い女だったら誰でもいいんだろうな、キモいな、って私が避けちゃってるだけだから」
収録されている2編の小説は、20代前半から後半にかけて、大学卒業後、職につき、日々の仕事をこなしながらも、どこか違和感を感じている主人公の友人との交流が、リアリティのある会話や文章でつづられている。
例えば、引用個所の会話は、非常にリアリティのあるセリフであり、小説の内容に没入感を与えてくれる。