塔2024年5月号気になった歌10首⑥
集まる人をわざわざ「生きてゐる」と表現することの違和感が、手を振って上着がこすれるという後段の言葉の感覚をざらつかせる。生きているから、冬は寒くて上着を着る。生きているから、手を振ることができる。当たり前のことをあえて書くことで、その逆のことの存在が背景にちらついて、奥行きがある。
セブンイレブンのカリカリコーンチーズは、ツイスト形状でカリカリ食感のコーンスナック。チェダー、ゴーダ、カマンベール、ゴルゴンゾーラの4種のチーズパウダーにバターオイルを加え、濃厚でコクのある味とのことだ。そんな「味のねじれ」のように嫌いだという。味だけでも濃厚なのに、食感までねじれさせて工夫するなんてトゥーマッチすぎて胸やけだという感じだろうか。具体的で唯一無二の比喩表現がおもしろい。
「あなた」に対する突き放したような感情。「綺麗」だから「強い」という感覚には、見栄を張って見栄えをよくし、マウントを取ることで強さを誇示するような態度が浮かぶ。ナチュラルな会話調の言葉遣いに強い感情がにじむ。
屋根からなだれ落ちる雪のオノマトペの的確さ。2つめの「ぐぐぐ」というのが秀逸で、確かにためみたいな時間があるのだ。しかし、そんな屋根からの雪崩は直撃すれば命を落としかねない危険なもの。落ちたのを確認してから空を身にゆく雪国の暮らしの大変さも実感がある。
「はつか」は、かすかさやほのかさを表す形容動詞。このスーパーにしかない食材というのがときめきポイントになるというのは超わかる。筆者の近くのスーパーでは、こまいという魚が定期的に鮮魚コーナーに並べられ、リーズナブルで酒のあてに最高なので、見つけると必ずはつかときめいている。
アイスブレイクは、初対面同志が緊張をときほぐすためにとる心理的なテクニックで、ビジネスの場面で商談の相手方が披露すれば、手練れの可能性が高く要注意だ。そうしたビジネステクニックとは対極にある「イデオロギー」を先方の布団に仕舞い込むというのは、なにやら強烈なカウンターを放っているような感じがする。
「飛び散らぬように卵を溶く」という丁寧な所作と「(おそらく行きたいと思っていた)絵画展が終わったことに気づいた」というバッドエンドの組み合わせが絶妙にシュール。「溶きながら」という瞬間の切り取りにも面白さがあり、その手を止めたところでどうしようもなく、その行為を続けているし、軽い絶望を覚えていることが周りにも一切気づかれていない感じがする。
丁寧なスケッチでありながら、幻想的な歌。落下していく水の粒が他のなにかと交わってしまうことに抗うように歪むという情景は、抗えないものに対して抗おうとする主体の感情のメタファーかもしれないと感じた。
寒冷地で蛇口が凍結して使えなくなってしまうことを防止するため、一晩中流しっぱなしにしていた水の流れが朝の光を取り込んでいるイメージが美しい。「細くたばねる」という描写に水と光がシンクロする。
本を照らす日光が暗くなってきて、日が落ちてきたことに感じ入っている。冬の陽射しある時間は短い。そうした季節ならではのことに心を寄せている姿が丁寧で抒情にあふれている。
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