ベトナムは猫年【第1回】 今っぽとレトロが混在するホーチミンの魅力
はじめまして。ベトナム在住のチズと申します。
ひょんなご縁から、こちらでコラムを書かせていただくことになりました。
突然ですが、今年の干支はなんだったか覚えてますか?そう!猫年です。
え?違う?あ、そうそう、日本をはじめ干支がある国においては、今年はうさぎ年でしたね。ところが私の住むベトナムでは、今年は猫年なんです。
理由は諸説あるようです。
中国語のうさぎを意味する「卯」の発音「mão(マオ)」が、ベトナム語の猫を意味する単語「mèo(メオ)」に音が似ていたため干支が伝来する際に誤って伝わった説。ベトナムではうさぎよりも猫の方が身近だった説。ネズミを取ってくれて庶民の生活に貢献してくれる猫が大切に思われていた説。などなど。定かなことは分かりません。
猫の方がうさぎより身近って言うなら、干支がある大体の国がそうなんじゃない…?という疑問がぼんやりと頭をよぎるのですが、兎にも角にもベトナムは今年猫年なんです。
私は縁あって、2019年からベトナムのホーチミンに住み始めました。
私が住む前に抱いていたベトナムのイメージといえば、バインミー・フォー・生春巻きといったベトナム料理、あと三角の形をした笠帽子(のちにノンラーという名称があることを知りました)にベトナムの民族衣装であるアオザイ…程度。
いつか旅行に行きたいな、くらいには思っていましたが、住むことになるとはつゆとも思っておらず、レトロで古き良き雰囲気の国なのだろうな、くらいのぼんやりとしたイメージしか持っていませんでした。
良くも悪くも先入観なく住み始めたベトナムという国、そしてホーチミンの街は、新しい発見の連続でした。
都心部にはぴかぴかの高層ビルが立ち並び、街を歩く子たちが着ているTシャツはOff-White、VETEMENTS、ESSENTIALS、足元はNIKEやアディダス、果てはバレンシアガのスニーカーといった、東京の街でもよく目にするストリート系のファッション。
おしゃれな洋服からすらっと伸びたベトナムの若者たちの腕や足には、ポップなキャラクターや筆記体で書かれたタトゥーがびっしり。
街のあちこちにあるおしゃれなカフェに入れば、流れてくる音楽は最新のKpopやベトナム語のヒップホップ。
路地のあちこちにはグラフィティが溢れていて、思ったよりも(失礼!)随分とおしゃれで今っぽなベトナムの街の様子にびっくりしたのでした。
今っぽいかと思えば、大通りから伸びる路地にひとたび足を踏み入れると景色は一変、野菜や果物が売られるローカルな市場が広がっていて、売り子のおばちゃんたちが人懐っこい笑顔で「姉さん何が欲しいの?今日はマンゴスチンが美味しいよ!」なんて声をかけてくる。
先ほどの大都会とは打って変わった昭和のような光景に、なんという高低差!とまたびっくり。
今っぽとレトロが混在するホーチミンの街が持つ良さに、私はガツンとやられました。
こちらのコラムでは、私が街のあちこちをうろちょろと歩き回って見つけた、今年の猫年、2023年時点のベトナムについて、ホーチミンを中心にいろいろ書いていけたらと思っています。
前置きが長くなりましたが、今回は、先日行われたSaigon Artist Marketについてご紹介したいと思います。
不定期で行われているアーティストの即売会のようなイベントで、出展者がアーティストと名乗っていれば出店できる、フリーマーケットのような雰囲気のイベントです。
InstagramやFacebookがあり、開催日程が決まると告知されます。
行ってみると出店作品の多様さにびっくり。
日本のデザフェスのようなイメージで、アクセサリー・文具・ステッカーなど気軽に買える実用品が多いのかな?と想像していたのですが、実用品や絵画はもちろんのこと、Nang Ceramicと言ったしっかりした知名度の高い食器ブランドのブースもあれば、観葉植物や日本でも流行中のテラリウム、タトゥーコンテスト優勝者のブースまであって、なんとその場でハンドポーク(手彫りタトゥー)が入れられたり(実際サクッとその場でタトゥーを入れてもらっている人が居ました!)ジャンルの多種多様さに驚きました。
このコラムのタイトルイラストを描いていただいているアーティストのThaoXekoさんとも、初対面はこちらのイベントでした。
少し前からあちこちのアートイベントで彼女の作品を目にして、彼女の描くコロリとしたかわいいフォルムのキャラクターに一目惚れしていて、Instagramをフォローしながら彼女の出店するイベントを心待ちにしていました。このアートフェアでやっとご本人にお会いすることができて、念願の彼女の作品も購入することができました。
私が日本で好きなアート展示やアーティストを見つける際には、好みのカラーのギャラリーを探してみたり、好きなアーティストが参加するグループ展繋がりで別のアーティストを見つけることが多かったのですが、ベトナムでは同じようにはいきません。
まず、日本と大きく違うところですが、社会主義のベトナムでは展示の際を内容を事前に公安へ提出し、検閲を受けるが必要であり、自由なアート展示を行うことについてのハードルが高いこと。そしてそもそもギャラリーの数自体が少なく、また出展費用も高いこと。
そのような背景から、若手アーティストの展示はほぼ見られません。
代わりに若手アーティストの活動の主戦場になるのが、このようなアートマーケット。
実用品販売のポップアップという名目であれば、検閲もなく、アート好きの人に知ってもらう機会も持てて、収益も得られるという訳です。
まださまざまなカルチャーが発展途上のベトナム。
便利な情報誌やキュレーションサイトも無いので、好きなものに出会うためには足を動かし目を凝らし、労力をかける必要があります。
それだけに好きなものに出会えたときは、宝物を探し当てたような喜びがあります。
これからも、こちらのコラムで、私が探し当てたベトナムの楽しいことをご紹介していけたらと思います。