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「旅先で食す意味」を考えるようになった宿
・・宿泊体験が、思考を発酵させていく・・
『思考を醸成する宿特集』は、従来のホテルを紹介する宿泊記ではなく、散文なエッセイ記事です。過去4年に訪れたさまざまな宿の体験を通じて、まるで原材料を発酵させて旨みや深みを増す発酵食品のように、宿泊体験が私の糧になり、思考や違和感、気づき、問いなどと変化した考えなどを認めています。
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東京の高層ビルでは手に入らない肌触りを求めて旅をする。
〈旅先で食す意味〉という問いに、私なりの考えに朧気ながらたどり着くきっかけを得たお宿がBYAKU Narai(以下、BYAKU)。
東京の高層ビルに囲まれた夜景の美しいレストランで使われてる漆器と、旅先の湿った空気に土の匂いが混じる宿場町の御宿で使われてる漆器。同じ漆器で、同じ料理が供されていても、その食事を楽しんでいるときの気持ちの在り方も、時間のとらえ方も、明らかに違うと思うんです。
この東京では得られない肌触りを味わうために、私たちはわざわざ旅に出て、宿に泊まり、そして食事をするんじゃないかと思うんです。
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長野県にある奈良井宿は、今から200年前に多くの旅人を迎え入れる宿場町として栄えていたエリアで、新宿からあずさに乗って、2時間半ほど。江戸時代の面影の残るこの宿場町に開業したBYAKUに、2023年の夏には別棟ができたとのことで、2度目の宿泊をしてきました。
BYAKUが奈良井宿につくられた文脈、酒蔵を生かしてつくられた空間デザイン、丁寧なサービス。どれをとっても素敵(詳しくは「人生のご褒美に行きたいホテル BYAKU narai」)なのですが、個人的には食事が本当によくって!
食事をするために何度でもそこに行きたいと思えるお宿は、私のなかでは指を折って数え上げるほどで、知人にオススメの宿を聞かれたときには「特別な何かがあるわけではないんだけど、BYAKUの食事、すごくいいんだよね」とつい毎回オススメしています。
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BYAKUで提供される数々の料理は、シェフが毎日長野県内を100km以上走り回って食材を調達して、季節感だけでなく、長野という土地固有の食文化・習慣が感じられる構成になっています。
長野の「ケな土地の味」を、舌が肥えた旅人に驚きを与える「ハレの食事」にするシェフの技量とセンスを堪能できる食事は、過度な演出はなく、奈良井宿だからこそ味わえる料理が、正しく供されている信頼感があります。
長野の人には日常食のおやきは、旅人にとっては土地の味であり、それを特別な日のディナーとして楽しめるメニューとして昇華させ、地元のお酒とのペアリングを楽しめたり、
器は決して華やかなものではないですが、BYAKU Naraiの敷地にあった蔵から出てきた漆器を修繕して利用して、旅人が訪れた土地の歴史を、彼らの目と感触から感じることができます。
多分、これらは「その地域ならではの食体験」で。
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多くのいい宿では、BYAKUのように「その地域の食体験」を提供していると思うんです。地元の食材。地域に根付く料理。受け継がれる伝統的な器。
宿泊者に提供されるサービスとして、その地域の食をシェフの腕で感動ある食体験に仕上げられています。
でも別に、地元の食材を使って地域に根付く料理を、伝統的な器でいただくことって、東京にいたてもできるんですよね。私たちが日本で本場の四川料理が食べられるように、「その地域の食体験」はある程度再現できると思うんです。
私がBYAKUで感じた〈旅先で食す意味〉は、よき宿が提供している「その地域の食体験」つまり土地の文化や歴史を伝承する食事以上に「旅先にいる"私"の身体性による体験」がきっと肝にあって。
目で見て。肌で感じて。耳で聞いて。手で触って。宿の滞在を含む、旅の中で感じたその地域の文化や歴史。東京では得られない肌触りを味わうために必要なのは、これらすべての「滞在した時間の結晶」だと思うんです。
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東京から時間をかけて移動して、降り立った奈良井では少し冷たく湿った空気に触れ、東京の速度で生きていた私たちの身体の感覚を、BYAKUで濃い霧に覆われた山を前にした露天風呂に浸かってゆるめ、そして、シェフが丁寧に紡いだ信州の食物語として味わって。
旅と宿のすべての時間を含めて、「旅先で食す意味」なんだと思うんです。そしてそれは、私にとって、わざわざその宿に泊まる意味のひとつでもあって。
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今のところ、そんな食の体験をできたのが、BYAKUだけなんですよね。でもそういう宿って、私が知らないだけで、きっと、もっと、多くはないけれど確実にあるはずで。
クイックでスピーディな東京で、美食を堪能する時間にはない感覚を求めて、何でも手に入る東京をわざわざ出て、その土地と宿と、そこでの食を楽しむために、私はこれからも何度でも旅に出るんだろうと思うんです、
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▼ホテル紹介マガジン。不定期更新中。
▼Instagram:旅先で訪れた場所を忖度なく、気ままに書いてます。思考のたまり場です。
▼ X:行ってみてよかった。買ってみてよかった。これがとてもおいしかった。そんな日常の記録。
2021年のご褒美に行くべきホテルBYAKU Narai。ここでしか体験できないことばかりで凄すぎた……
— さかかな°・🐠ぐっどもーにんぐ (@a000j) December 9, 2021
江戸時代からある広〜いお屋敷の家と蔵を改修した全12室。部屋からの幽玄な景色。全室露天風呂。レストランの酒造で搾りたての酒が飲めて、お風呂は信濃川の湧水…。写真4枚じゃ足りないからリプ欄見て… pic.twitter.com/bbLDMv5iye
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