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●●塚山の豪邸とN


ある日、友達と犬を連れて散歩してたんです。近所に溜池がありましてね。
その池の近くに小さい山があって。山と言っても小さい丘みたいな山で●●塚山って言うんです。もしかしたら塚か古墳なんじゃないかなって思うんですけど、調べてもよくわからないんです。


その山に入って行ってフラフラと歩いていたんです。ふっと空の方に目をやると、木と木の間に、洋風の窓と三角の屋根が見えましてね。
(あれ?あんな所に家がある)と思ってよく目を凝らしてみてみると、どうやらとても大きなお屋敷のようで、私は友人のNに声をかけたんです。
Nは、振り返って犬を連れて戻ってきました。
「あそこに、大きな屋敷があるからちょっと寄ってみようよ!」
え?そうなの?どれどれ?とNも屋敷の方へ目をやりました。

「えーーーーー…なんか廃屋っぽいよ?気味が悪くない?」
とNは眉間に皺を寄せて言いました。
でも気になるじゃん!とNの腕を掴んで振っているとNは、んーーーーーーと顎に手を当てて少し考えるような仕草をするとしばらくしてから
「わかった。レオ(犬)も居るし、なんかあったらスグに逃げよう!」と承諾してくれました。

私は、屋敷のある方向へ向かって歩き出しました。木を掻き分けてしばらく歩くと、目の前に急に大きな洋館の屋敷が現れました。大きな黒い鉄の門の向こうに白い壁と深い緑色の壁の屋敷が建っていました。
「これって誰かの別荘だったのかな?」
「うーん?そうかも?」
すると、レオが四つ足を地に踏ん張ってウウう!!!と唸り始めました。
「レオ?どした?」とNがレオに声をかけます。
レオは、唸り続けて何もない屋敷のドアの辺りに向かって激しくワンワンと吠え出しました。それを見てNは、レオを抱えながら上目遣いで私を見上げて
「ねえー〜〜やっぱりやめようよ〜…」と弱々しい声を出します。
「えええーここまで来たのに?大丈夫だって!」と私は強引にNの手を引いて屋敷の門扉に手をかけました。その時です。

「ねえ」

と耳元で少女の声が、はっきりと聞こえてきました。
バッ!と振り返っても何も居ません。
????今の何???
Nを怖がらせるのも嫌なので、黙っていました。
Nは、少し青い顔をして肩をすくめ、屋敷の扉を見つめています。
門扉を押すと、ギイいいい!!と軋んだ音を立てて開きました。

屋敷の庭は、荒れていて草も生え放題でした。右手には、キノコ型の屋根がついた東屋があり、草の生えた地面にうっすらと白い石ので出来た小道が屋敷の扉の辺りまで伸びていました。その上をゆっくりと歩いてゆきます。

扉までの小道の周りには、石膏で出来た小鹿やうさぎらしきものが置かれていてそれらには、うっすらと青い苔が生えていました。よくみると全体的にメルヘンチックな可愛らしい庭です。

屋敷の扉の前に立つと、扉には大きなライオンの形をしたドアノッカーがついていて、誰も出てこないだろうと思いましたがライオンが齧っているドアノッカーを掴んでゴン、ゴンと2度打ちつけてみました。すると、扉がギイいいと少し開いたんです。
「あれ?鍵が掛かってないね」
扉の向こうは、薄暗くてよく見えませんでした。
ねえ、ヤバいよ〜〜〜」とNが怯えていいます。
「大丈夫!誰もこんなところに来やしないって!」
何故か私は怖いもの知らずというか、意気揚々とこの屋敷に入ろうとしました。
思い切って大扉を押すと、更にギいいいいいと音を立てて扉が開きました。
外の光が差し込んで中の様子が少しわかりました。

玄関には、真っ赤な大きな円形の毛の長いラグマットが敷かれていて、その先に白い大きな階段が伸びています。階段の両端の壁には、大きなドアが6つずつ並んでいます。
中は、少し埃っぽいけど意外と綺麗でした。ラグマットにそっと乗って辺りを周りを見渡します。天井には、大きなシャンデリアが付いていました。

はあーー〜と息を吐きながらふと、階段の上に目をやると、白いネグリジェのようなものがフワッと横切りました。それは、2階の奥の部屋へと消えました。
あれっ?なんだろう?と私が2階に進もうとすると

ねえ!」とNに声をかけられました。
だから大丈夫だってーと振り返ろうとすると、そこにNは居なくて白いネグリジェを着た黒髪の女の子が立って私を凝視しています。

え。だれ。

「あなた、乾いてるの?」と少女が聞いてきます。

え。何が?

「乾いているんじゃないの?」と再度聞きます。

言われてみれば、喉が…と言いかけると、少女はスッと階段の右側にあるドアの中に消えて行ってすぐに戻ってきて、水の入ったグラスを渡してくれました。

あ。どうもとグラスに口を付けて水をごくんと一口飲むと、うわっ何これ臭っ!と思ったら

ぐらり。と風景が歪んで、目の前がまっくらになりました。


ええ。そこからの記憶は曖昧なんです。とにかく怖くて…夢中で駆け出していました。どうやって山を降りて此処まで帰ってきたのかもあまり覚えていません。

あの屋敷、一体なんだったんですかね?
次の日に怖かったので、親と一緒にまた行ったんですけど、屋敷どころか屋敷の門すら無くて木々と草しか生えてないんです。でも、あのキノコ型の東屋だけは、そこに建っているんですよ。だからあそこに別荘があったのは、確かなんです。でも、昨日の夕方まであった屋敷が一晩で消えるなんておかしいでしょう?

え?あの子はどうしたって??それが…全くわからないんですよ。途中で逸れてしまって、だって独りで2階へ急いで駆け上がって奥の部屋へ勢いよく入ってバタン!ってドアを閉めていつまで経っても帰ってこないし。しばらくするとその部屋からドタンバタンと大きな音がして呻き声が聞こえてきたから私、怖くなって踵を返して逃げたんです。気がついたら山の麓の元来た道に倒れていました。
親に電話して迎えに来てもらって、その時は、私は泣き喚きながら訳のわからないことを口走っていたそうです。白いドレスとか、ドブ臭い水がどうとか、目の前が真っ暗になったとか…支離滅裂なことばかりなんです。

とにかく、もう2度とあんな思いをするなんてごめんですよ。

怪しい屋敷とか、心霊スポットとかもう行きたくありません!!!!


え?あの子のことは、探さないのかって?だって、屋敷はもう無いんですから探しようがないでしょうよ。元々あの子が行きたいって言い出したんだし、私は知りません!と彼女は、犬を引っ張って駆け出して行ってしまいました。

あんな子なんて知らない、
あの子なんて知らない…

とブツブツと呟きながら。


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