藤本ナオ子(naok fujimoto) 《滞在まとめ》藤枝@静岡での”ラディカント”な7日間〜《ひと✖️まち✖️ものがたり》に触れて〜
マイクロ・アート・ワーケーションMAWに参加して
1)はじめに
アーツカウンシルしずおかの主催事業、マイクロ・アート・ワーケーション(MAW2023)の”旅人”として静岡県藤枝市に滞在した7泊8日(※)
藤枝の《ひと✖️まち✖️ものがたり》に触れる刺激的で贅沢な旅であった。
名残惜しいが、MAW2023の”旅人”の最後の記録として、
藤枝での《滞在まとめ》を記していきたい。
※ 本来のMAWプロジェクトは6泊7日だが自分は藤枝に1泊延泊したので7泊.
2)”ラディカント”な7日間
藤枝市(静岡県)から東京に戻ってはや2週間。
ずっと”藤枝”のことばかり考えている。そう、”藤枝・ロス” なのだ。
藤枝滞在中の9月下旬〜10月早々は(季節は)仲秋の頃とはいえ全国で静岡県が最高気温35度をマークするなどの猛暑続き。そんな藤枝を歩きにめぐった名誉の勲章(肌に焼きつく腕時計の跡)をじっと横目でにらみながら、
本noteを書いている。季節はようやく猛暑が去り本来の秋の姿をまとう。メディアは連日、新たな戦争(イスラエル・パレスチナ間の武力衝突)について書き立てる。先月まではまったく予想だにできなかった状況だ。
周囲が目まぐるしく変化を遂げるなか、藤枝滞在時に(私のなかで)根付いた何かがツル草のように藤枝から東京へ、少しづつ少しづつ這うように地中を旋回しながら広がっていく….そんな感覚がいまもなおずっと続いていく。
それは、これまでに味わったことのない旅の残像であり、『関係性の美学』(L’esthétique relationnelle, Presses du réel, 1998)の著者でありフランス出身の理論家でありキュレーターのニコラ・ブリオー氏(Nicolas Bourriaud, 1965-)が語る”ラディカント(radicant)”な座標軸と”記号航海士”的な旅の道程と醍醐味を感じさせるのだ。
ニコラ・ブリオー氏は2009年の著書『ラディカント =グローバリゼーションの美学に向けた=』(訳:武田宙也, フィルムアート社, 2022)において、彼は”21世紀のアーティストはさまざまな記号同士を結びつけ、社会的文化的な空間や美術史にさまざまな道程を結びつける記号航海士である”(p.241)と語る。更に、 ”これまで世界を解釈することしかしてこなかった哲学者が、今や重要なのは世界を変えることであるように アーティストが世界を変えていく” (p.139)と加える。しかしながら、私にはこのように軽やかさなブリオー氏の観念に少し戸惑いと面映さを覚えてしまうのだ。なぜなら、こうした口上は(当初の願いや想いとは裏腹に)時としてある種のプロパガンダや恣意的な思想とがごっちゃにされそうで一抹の薄ら寒さを未だ拭い去ることができないからだ。
けれど、その一方で、テクノロジーの発展によりグローバル化が加速し益々物事の実態がブラックボックス化する昨今、これまで信じられてきた『大きな物語』や『歴史」が喪失しリキッド・モダニティーが現実化する社会にあって不安定性なものが溢れる時代だからこそ、(アートのような水物の漂流物が何がしかの変化の兆しになり得るのかもしれない)といった期待値もある。今回の旅ではそういったアートにまつわる自分なりの思いや解釈の棚卸しが初訪問の藤枝の《ひと✖️まち✖️ものがたり》をつうじてなされたようなそんな嬉しい誤算があった。
それは、これまで自分が体験してきた旅(観光)とは異なるインタラクティブな双方向性のある旅であったことが大きい。たとえば、単純にツーリストとして訪れる旅では、観るもの、感じるものから生じる感情は一方通行になりがちだ。現地での(地域の人々との)コミュニケーションといっても、単なる観光ではツーリスト・インフォメーションや宿泊先のホテルのフロント、公共交通機関での乗り継ぎ案内云々…といったやり取りに終始される。もちろん、通りすがりに道を聞くだけの出会いが一期一会につながることも否定はしないが一般的なツーリズムのコミュニケーションではそれ以上に広がることを予測できないうえに容易ではない。そして、こうした行きずりの道すがらに出会う旅先案内のホスピタリティーが親切丁寧であればあるほどもてなしを受ける側の旅人は(異邦人としてのセンチメンタリズムも加味されて)その土地の全貌や地域性を分かった気になってしまうのだ。けれどもそれは旅人の安易な解釈とエゴでしかないわけで、それこそが双方向性ではない旅上のコミュニケーションのジレンマと言えるのではないだろうか。
しかし、 アーツカウンシルしずおかのマイクロ・アート・ワーケーション(MAW)は、”クリエイティブ人材(MAW旅人)を迎え入れ地域住民との交流を支援する団体(ホスト)=《現地ホスト》”が存在し、そこを介したある程度の滞在プラン(現地での”地域案内”や”住人との意見交換会”など)が組まれていることや、アーツカウンシルしずおかからの”旅人”(=クリエエイティブ人材)といったお墨付きや、”地域との交流”といった(”MAW旅人”に求められる)ちょっとしたミッションが存在することで、双方向性のあるコミュニケーションをはかることへの敷居が狭められるのだ。それ故に、初訪問の地域であってもサポート体制上の「安心感」と、適度な「使命感」とが相まって、単なる観光ツーリズムとは一線を画す”地域住人とのインタラクティブなコミュニケーションが可能な旅”となるのではないだろうか。
そんなおかげもあり、今回の藤枝市@静岡県での滞在は帰京後はや2週間が過ぎようとする現在もなお藤枝で生まれた何かがツル草のようにするりと根を下ろし其処彼処へと広がり点と線とを結びながら脈々とつながっていくようなそんな実感があるのだ。
3)地域との交流をとおして
特に最終日(藤枝滞在6日目)に岡出山小路@藤枝5丁目で開催された「地域交流(住民との意見交換会)」の場でそんな思いが根を下ろす出会いがあった。それは子育てをしながらお母様の介護をされている女性との対話だ。以前は東京にお住まいだったその女性は親御さんがご高齢になったことを機に地元静岡にUターンなさったのだとか。日々デイケアに通うお母様の背中を見ながら、「毎日毎日ただただトレーニングするだけの生活っていうのもどうなのかなあって…もちろんそれは必要なことなんだけれども…(中略)…だからこそ、そういう部分をうめたり解決できたりのが”アート”かなって思うんですよ〜」と、笑顔でお話ししてくださった姿がとても爽やかで勇気づけられる思いがした。
最近、自分の身の周りの友人・知人が親の介護に直面していたり、また自分自身もかつてヤングケアラーだったこともあり、高齢者問題や居場所、ケアにまつわるQOL(Quality of Life)…etc.といった社会課題は自分にとっても見逃せないトピックのひとつだ。だから、藤枝滞在5日目に駅前のスーパーの休憩スペースで昼間から晩までずっとひとりで佇む高齢の男性に遭遇したことは、東京や大阪、そして震災復興支援で幾度か訪れた釜石市@岩手県で見聞きした社会のリアルがここでも垣間見られるようで、今回参加した「地域交流(住民との意見交換会)」の場で”藤枝滞在中の出来事”のひとつとしてお話しをさせて頂いたのだ。その応答として個々の実体験に基づく地域の方々との対話がかなったことは単なるツーリズムでは得難い”マイクロ・アート・ワーケーション(MAW)”ならではの旅の味わいではないだろうか。
当初、初の藤枝訪問から好調に歩んできた藤枝滞在5日目にとあるスーパーの休憩スペース内の座席の有無を確認した途端に高齢の男性から拳とともに怒声を向けられたことは少なからずショックではあったが、この男性との出会いがあったからこそ単なる”るるぶ”的な旅(「見る」・「食べる」・「遊ぶ」の語尾をつないだ旅行雑誌『るるぶ』の名称由来)から逸脱した双方向性のある対話を経験することができたものと考えると、本章2)『”ラディカント”な7日間』で記したニコラ・ブリオー氏の、”21世紀のアーティストはさまざまな記号同士を結びつけ、社会的文化的な空間や美術史にさまざまな道程を結びつける記号航海士である”(p.241,『ラディカント』,フィルムアート社, 2022)といった一文がじわじわと五臓六腑に沁み渡ってくる。そして、更にはその航海を続けるその果てに、ニコラ・ブリオー氏が語る”アーティストが世界を変える”(P.139,『ラディカント』,フィルムアート社, 2022 )といった展望をいつの日にかブリオー然とした軽やかさとしなやかさで可視化させることができたならばと期待するのだ。
4)おわりに…点と線とをつなげて…
このように、”まち”を彷徨いながら、”ひと”、”歴史”、そして、そこから生まれる”ものがたり”にふれることが可能なマイクロ・アート・ワーケーション(MAW)は実に記号航海士的なアーティスティックな旅のパッケージだ。
と同時に、藤の花、サッカーのまち、お茶、藤枝宿(東海道五十三次)、朝比奈大龍星、日本遺産、旧街道、朝ラーメン、子育て支援、まちづくり、地域おこし、演劇祭、白子ノ劇場…etc.といった多種多様な多彩なキーワード(記号)がたち並ぶ藤枝市はこの場所を起点に再び新たな航路へと出帆する旅人にとってイマジネーションをかき立てるお誂え向きの環境といえるのではないだろうか。
そんな思いに至る有為さが藤枝から東京へとつながり、次なる座標軸を目指し根を張りながらしなやかに点と線とでつながっていく。そして。そういったフィジカルな関係性から生まれる移ろい続ける居場所というものが(まちを彷徨うことで気づかされ)存在することを今回の旅をとおして教えられた気がした。そう、旅は一見にしかずなのだ。コロナ禍以降(私にとって)初となる旅先がこの静岡県藤枝市で、そしてこのマイクロ・アート・ワーケーション(MAW)でよかったなあと思う瞬間でもあった。
静岡県藤枝市で出会ったすべての皆さま、
今旅のホストであるフジエダカラーの仁科亜弓さん、
同じく旅人で藤枝をご一緒してくださったダンサーの鈴木ユキオさん、
そして、アーツカウンシルしずおかの皆さま、
おかげさまで大変有意義な時間を過ごすことができました。
よき機会をいただき本当にありがとうございます。
藤本ナオ子|naok fujimoto
2023年10月吉日
5)その他(藤枝滞在記:1日目〜7-8日目)
▶️藤枝市滞在1日目
「いざっ、藤枝市@静岡県へ…(1日目)」
▶️藤枝市滞在2日目
「eBIKEでGo♪藤枝市@静岡(2日目)」
▶️藤枝市滞在3日目
「まち歩き@藤枝市《旧市街地区から、明治のトンネル》 (3日目)」
▶️藤枝市滞在4日目
「藤枝リサーチ=藤枝市前半の振り返り =(4日目)」
▶️藤枝市滞在5日目
「藤枝リサーチ=藤枝市前半の振り返り =(5日目)」
▶️藤枝市滞在6日目
「藤枝リサーチ=バス旅Go!=(6日目)」
▶️藤枝市滞在7-8日目
「Good Bye藤枝🎶、また会う日まで〜♬(7-8日目)」
以上
text by ©️naok fujimoto