とある夏の初め(4月)の日のこと。東京。神戸。
その日は暑かった。
最近食べ過ぎててやばいなーと思って、苦し紛れに職場まで30分弱歩いている。
職場は六甲山の麓にあるから、ほぼ登山。いや、そんなこと言ったら、登山をちゃんとする方々に怒られてしまうか。
家から職場までほぼずっと坂なので、私にとっては軽く登山なのだ。
とは言え暑いのは出勤時だけで、それ以外、室内ではひんやりするだろうと思っていた。
ところが日中、ちょっとスーツで動き回ろうもんなら、すーぐ暑くなった。
そして半袖でほぼ一日を過ごした。
気が付かぬ間に、4月も末、桜も散っていた。
*
あー今日もぼちぼち疲れたなぁなんて思って、珍しく誰よりも早く退勤して、一人でのんびり寄り道して、危険な時間にラーメンを食べて帰宅。
暑かった日中に、友達が久々に連絡をくれていた。
自身の新しい音楽ユニットのlyric videoを公開する、という知らせだった。
友達のそういった知らせはいつだって嬉しい。
この9年、悩んだり迷いながらも、いつもその点と点をタイミングで見てきた。
翌日はGW初日ということで、職場は大忙しになるはずなのに、何故か私はノンアポで、だから翌日は12時出勤でいいよって先輩がいってくれて、だからラーメン屋でビールなんて飲んでしまっていた。
帰ると部屋の窓が開いていた。
朝、家を出る前から暑かったから、窓を開けっぱなしで外出してしまったようだ。
彼らの音楽を聴き、彼の作ったビデオを観ながら、ポーっとしてしまった。
疲れた脳にアルコールが効いている。
環七通り。そのワードに胸が疼く。
夜風が心地よい。
*
東京。
4年半住んだ。4年半の間、一度も引越さずに同じ家に住み続けた。
東京なんて、自分の居場所じゃないと思っていた。ずっと居心地が悪くて、借りてきた猫の仮住まいみたいな気分だった。
東京に居続ける確固たる理由も無いけど、他に住みたいところも無いし、引越し代も無ければ引越す手間も面倒くさい。それだけの理由で住み続けていた。
物価は高いし、狭小住宅、どこで遊べばいいかわからんし、どこへ行くにも混んでる電車、人混みは疲れる…渋谷新宿なんてもう…だけど行きたい場所に行くには避けては通れない。挙句の果てに時間に余裕を持って行動しないもんだから、いつも駅を早歩きかダッシュ、誰かを出し抜くような振る舞いだった(客観的に見て最悪)。
それでも好きな街はいくつもあった。
転職で神戸行きが決まり、神戸での家探しから東京に戻ってきた日。
あ、帰ってきた…。とホッとしている自分に気付いた。気づかぬ内に、東京の家が帰る場所になっていたんだな。
東京を発つ前の約1ヶ月、それまで会っていなかった時間は何だったのか?というほどその友達にはしょっちゅう会った。近所に住んでいたんだからもっと会えば良かったじゃんね。ま、近くに住んでいる時ほど会わない、そんなものだよね。そんなふうに話していた。
9月。暑いけど涼しい日もあって、半袖を着始めた最近みたいな気温だったのかなあの時は。
蚊に刺されながら外で数時間駄弁っていたことを思い出す。
配属先が決まった時も、彼の家に駄弁りに行った時にメールが届いて神戸行きが発覚したのだったな…!
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神戸。新しい仕事に新しい土地。心許せる友人が誰もいないこの土地での生活は、初めとても辛かった。
東京で、仲間内で辛い辛いと言い合っていた時とはまた種類の違う辛さだった。
頻繁に会わないにしても、すぐに会おうと思えば会える距離に友達が居る。その安心感の偉大さを感じていた。
仕事にも環境にも慣れていないのだ。心細くて当然だろう。わかっていたのに神戸なんて何でノコノコ来てしまったんだ。そんなふうに思ってしまった。
元来圧倒的出不精な為、どこかへ観光に行く、なんてやる気も出なかったし、元々神戸への憧れもなかった。
(そういえば、京都に住んでいた時は「京都!いいな~羨ましい!」とよく地元の知り合いに言われたものだが、私にとっての京都は、彼らの言う”羨ましい京都”とは違う京都なのではないか?と思っていた。いわゆる観光地な京都に全く興味がなかったが、地元に根差した京都は大好きだった。
往々にして、住んでいる時の視点と、外から見る視点では、全く違うものになるのだ。土地だけでなく、仕事でもなんでもそうかもしれない。)
神戸から一刻も早く去りたい気持ちでいっぱいだった。
ところがだ。その神戸が近頃少しずつ好きな場所になりつつある。
いや、好きというより、自分の場所になっていったということかもしれない。
というのも、仕事で担当した顧客を自分の職場から送り出す機会が増えてきたからなのだろう。(仕事柄、担当顧客との関わりは、約4ヶ月で一旦区切りがつく。)
ここ最近までは自分自身が、あっちでもない、こっちでもないと彷徨う船のようであった。しかしそれが職務の性質上、私自身が誰かの波止場にならざるを得なくなってきている。
誰かを迎え入れ、そして送り出す。
気が付けば、自分の居場所としてドーンと構えるようになっていった。
またいつか、送り出した人たちが、この場所に帰って来てくれるといいなぁと願いながら。
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環七通り。なんでこんなにエモーショナルな響きなんでしょうね…!
個人的には甲州街道に馴染みがあるけれど。
京都にしろ東京にしろ、通りの名前は、深い記憶と共にある。
窓から入る夜風が寒くなってきた。
花粉が終わって、梅雨前の爽やかさがある僅かなこの時期。
夏の終わりの次に好きな季節だ。
神戸から去る時が来るまでに、六甲山には登っておこう。登る登る詐欺になるかな。
とりあえず、次のお休みにはハーブ園にネモフィラを見に行くよ。約束するよ、ネモフィラちゃん。
歩道橋のアニメーションと、お鍋の宇宙船が最高だった。
もう寒いから窓を閉めよう。
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p.s.
この文章を勢いで書いてから、2週間近く放置してしまった。熟成させると言えば聞こえが良いが、時間を経て校正などしてしまうと、文章の鮮度が失われてしまう感覚がある。酔っ払いが書いた文章だから、翌日にでも手直ししてアップしようなんて思っていたけど、翌日は確か雨風が酷くて台風並みの嵐だった。このテキストにそぐわなくて気が向かず。その後も仕事の疲弊で校正どころではなく。そんなことをふらふら言っているうちにあっという間に半月。文章も生ものなのね。
ちなみに、この文章を書いたあと計2日のお休みを布団の中で過ごし(笑)、ネモフィラちゃんとの約束は果たせなかった。
そして昨日仕事が半休だったので、漸くネモフィラちゃんを見にハーブ園まで行ってきた。
ところがちゃんと閉園時間を調べていなかったので、結局ネモフィラちゃんは空中から見たのであった🛸👽