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未来宇宙SF コスモス(宇宙)を継ぐ(4)~弱虫アイが スーパーロボットに~

「そのスイッチを押すと、わたしのインテリジェント・レベルがひとつあがります。そのようになれば、わたしもレイのためにいろいろなころができるようになります」
  レイは黙って、言われるままにアイの背中の真ん中にある1センチ四方の蓋をスライドさせた。その中に黒いボタンが見えた。この位置はアイの手は届かない。誰かに押してもらうしかないように作られているのだ。
「そのボタンを一度だけ、長く押してください」
 レイは言われた通りにした。アイの頭部、ヘルメットの部分の幾つかのランプが点滅し始めた。そしてかすかにブーンという音が聞こえた。そして5分ほど経過した。その間アイは、レイが話しかけても何も答えなかった。やがて音が止まり、アイがゆっくりレイの方を見た。
「お待たせしました。今はレイさんと同じようにお話しすることが出来ます。なんなりと疑問点を質問してください」
 レイはアイに向かって言った。
「おうそうか、君についていろいろ聞きたい気もするのだが―――、今差し当たっての問題は、君をどうやって僕のいる宇宙ステーションに運ぶ、いや、連れていくかだ」
「レイさん、私に考えがあります。まず、私の体からメインAIチップを取り外してください。AIチップは背中の黒いボタンの横の格納用スロットの中にあります。あ、今でなくて後程です。人の話を落ち着いて聴くように」
 アイに言われたAIチップを取り出そうとして手を延ばしたレイは自分とほぼ同じ大きさのスーパーヒーローの形をしたロボットに諫められて首をすくめた。
「そのチップは1グラムですから、レイさんの上着のポケットに入れて宇宙ステーションまで持って行ってください。決して無くさないでくださいね。宇宙ステーションで何らかのコンピューターに格納すれば、取り敢えずその中で私が動き始めます」
「う、分かった」
「それから、私の本体はたためます。私の背中の先程のスイッチを3度押して、スーツケースと言ってください」
  レイは、意味がよく分からなかったが、ともかく言われたことを慎重にやってみることにした。アイの背中のスイッチを3回押して、一息入れて、「スーツケース」と言った。スーという機械音がして、3秒程で目の前のスーパーヒーローが長辺1メートルほどのスーツケースになった。
「うひょう」とレイはつい奇声を発してしまってから、どれとばかり、スーツケースの持ち手の部分に手を掛けて、持ち上げようとした。しかし宇宙ステーション暮らしで最低限の筋力しかないレイには手に余るものであった。
「おいおい、アイ君これ重すぎるよ」
 スーツケースから声がした。
「だめですか。やっぱり」
「レイさんが持てるのは、骨格のデーターからおおよそ40キログラムと推定されます。一方スーツケースはおよそ80キログラムですから」
「お前、そんなに重いのか。ともかく持ちきれん」
 レイの目の前のスーツケースはスーという音とともに先程と反対の動きで元のスーパーヒーローになった。
「では、歩いて行きましょう」
「って、どこへ」
「デリバリーセンターです。そこのロッカーサービスに私を一旦、預けてください。そして私のAIチップだけを持って宇宙ステーションにお帰りください。スーツケースは後日宇宙ステーションに届けてもらいましょう」
いつの間にかロボット猫が3匹レイの足許に現れた。彼らはまるで道案内をするようにレイとアイの前を歩き始めた。アイがレイに話しかけた。
「あの猫たちは、私が作ったのですが、私が寝ている間に大分成長したようです。宇宙ステーションに連れて行きましょう」
「あの猫たちを作った?どうやって」 
「100年程前方から、10年ごとの私のメンテ期間の間に工作しました」
レイは頭が少し混乱してきた。
「聞けば聞くほどわからなくなるな。10年毎のメンテ期間って?」
「そうですね。私の生い立ちを説明した方がよさそうですね。ではデリバリーセンターにいくまでの道すがらで、概要をあらあらお話ししましょう」
そういうとアイはすくっと、立ち上がって歩き始めた。
「私は西暦2030年生まれです。私というのは私の意識を発生させているAIチップに書き込まれた『自我』というべきもののことなのですが、それが今から丁度250年前に書き込まれました。それが私の生まれた時と言えるでしょう。書き込んだ人はあなたと同じ名前のレイと言う人物です。但し日本人で名前は漢字で書きます」そう言うとアイの腹部のディスプレイに「令」という文字が現れた。アイは話を続けた。
「生まれた場所はこのヨコハマ地区の運河沿いにあった建物のコンピュータールームの一室です」
  レイはアイが言っていることに素早くついて行けないため、ちょっと考えるしぐさをした。アイはレイの方をちらっと見て言った。
「私の話し方は少し速すぎますか。もう少しゆっくり話しましょう。それと長くなるのではしょって話します」
 その時、アイとレイが歩いている歩道を横切るものがあった。それは一人乗りの作業用トラックで、歩道の横を走る小型作業車のレーンから逸脱して入ってくるものであった。そのトラックは二人の前で急に止まった。トラックから警察官の姿をした男が降りてきた。この車は警察車なのかとレイはあっけにとられた。アイはじっと固まったままになっていた。警察官はレイとアイに近づくと言った。
「やあ、この先で大きな火災があり、立ち入り危険地域となっています。この先は行かないように」
  アイは警察官の姿を観察するように眺めた。警察官はレイの方を見て続けた。
「おや、お連れの方は変わった格好ですね。仮想パーティーでもあるのですか。それにしても二百年も前のアニメーションに登場しそうなロボットとは。ちょっと危険ですな」 
  警察官は最後の言葉を意図的に少し強調した言い方をした。そして二人に近寄って来た。アイは顏をレイの顏に近づけて囁いた。
「これはやばいです。逃げましょう」
 そう言うと、アイはレイの身体をひょいと持ち上げ抱きかかえた。猫3匹がアイの背中にはりついた。アイの足の部分がスケートボードのようになり、アイはそのまま一目散に走り出した。

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