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はじめに

栗原俊秀

翻訳の仕事をしている栗原です。未知谷のnoteの軒をお借りして、この文章を書いています。まずは、自己紹介をさせてください。
私は2012年に出版翻訳の仕事をはじめ、これまで未知谷からは9冊の訳書を刊行してきました。そのうち、『ダックスフントと女王さま』(メラニア・G・マッツッコ著)という児童向け作品を別にすれば、私の訳書はすべて「イタリアと移民」にかかわりを持っています。19世紀後半から20世紀なかばにかけて、イタリアは世界各地に大量の移民を送り出してきました。そして、ここ数十年間は反対に、中東、東欧、アジアやアフリカからの移民(あるいは難民)を受け入れる側に立っています。文芸書の翻訳をとおして、移民という現象の多様性と普遍性を伝えることが、今日までの私の仕事を貫く大きなテーマになっています。
2016年に、ジョン・ファンテの『満ちみてる生』という訳書が刊行された際には、未知谷の営業でありファンテの熱烈な愛読者でもあったFさん(現在は福岡の出版社で、編集兼営業としてご活躍されています)のご尽力により、東京の4つの書店で「移民をめぐる文学フェア」を開催していただける運びとなりました。これは、拙訳書7点と、私がセレクトした翻訳書8点、合計15冊の「移民をめぐる文学」を、書店を訪れた人びとに紹介する試みでした。
今回、未知谷の編集の伊藤さん(「はじめに」を書かれている方)から、先のフェアで使用した各書籍の推薦文を、noteに転載してみないかという相談をいただきました。私にとっても、それはたいへんありがたい提案でした。栗原の訳したものを(一、二冊だけなら)読んだことがある、という方や、まだ読んでいないけれど(ほんのすこしだけ)気になってはいた、という方に向けて、私がこれまでどのような意図を持って仕事に取り組んできたか、それぞれの訳書のあいだにはどのような関係があるか、といった点について、広くお伝えする機会になると思ったからです。
フェアでは当然、15冊が一度に陳列されたのですが、未知谷のnoteでは連載という形をとり、数回にわけて推薦文をアップしていくことになりました。それにともない、元の文章(ブックフェア実施店舗で配布した選書リストに載っていたもの)にはところどころ手を加えてあります。
拙文が、未知谷の書籍を手にした方々にとっての、「小さな灯火」のひとつとなることを願っています。

2020.04.24

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