未知谷 a letter from unknown valley

水道橋・御茶ノ水・神保町の真ん中、アテネフランセの崖の下にある出版社です。 哲学、文学、自転車の本を出版しています。 未知谷の本から広がる世界を発信していけたらと思っています。

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マガジン

  • 菅寿美 チェコ文学 オタ・パヴェル

    オタ・パヴェル著『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』の訳者・菅寿美さんが、読者のみなさんをチェコ文学、チェコ文化のもっともっと遠く深い場所まで連れて行ってくださいます! 本文中の引用に示される参照ページはもちろん!『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』の該当箇所です。

  • 栗原俊秀 移民をめぐる文学

    『偉大なる時のモザイク』で第二回須賀敦子翻訳賞受賞、「イタリアと移民」にまつわる文学を9冊にわたって翻訳されてきた栗原俊秀さんによる読書案内。まずは、2016年に東京の4つの書店で開催された「移民をめぐる文学フェア」をリニューアル再現。 訳書:ジョン・ファンテ、メラニア. G. マッツッコ、カルミネ・アバーテ、アマーラ・ラクース

  • 工藤正廣 ロシア・東北

    ロシア文学者、詩人の工藤正廣さんによるエッセイを掲載していきます。 北海道大学の名誉教授でもあります。 翻訳:『パステルナーク全抒情詩集』『ドクトル・ジヴァゴ』/ 著作:『アリョーシャ年代記』三部作、等、著書訳書多数

  • 岩田道夫の世界

    岩田道夫さんの本の世界をご紹介します。 いわた・みちお 1956年網走市に生まれる。北海道大学理学部入学、卒業目前に中退。以後、創作に専念し絵画や詩、童話を制作する。童話は佐藤さとる氏に師事。同人誌『鬼が島通信』に投稿するかたわら、童話と散文集『雲の教室』と詩集『ミクロコスモス・ノアの動物たち』を出版。拠点を旭川に移し、旭川の自然を中心に描く。1992年童話集『雲の教室』(国土社)で日本児童文芸家協会新人賞を受賞。1996年旭川の嵐山をテーマにした詩画集『チノミシリ』出版。2014年7月心臓発作のため、数多くの作品を残したまま急逝。新刊に『イーム・ノームと森の仲間たち』、ふくふく絵本シリーズ3冊、『ファおじさん物語』春と夏、『同』秋と冬(未知谷)がある。

最近の記事

『婚礼』(スタニスワフ・ヴィスピャンスキ作)について

近日刊行予定の《ポーランド文学古典叢書》第11巻『婚礼』をご紹介します。 分割下、祖国を奪われていたポーランドの 国民意識を揺さぶった傑作戯曲として今も愛される ポーランド文学の至宝、ついに邦訳成る!! 作者はスタニスワフ・ヴィスピャンスキ、 翻訳はクラクフ在住の津田晃岐さんです。 まずはこちらをお聞きください。 概要 『終わりと始まり』のシンボルスカの暮したポーランドの古都クラクフ 時は一九〇〇年頃、芸術家や知識人が近郊の村へ赴くことが流行した ある者は作品の霊感を求

    • 見誤るな 直視せよ 中国の真実   矢吹晋著作選集完結記念 特別インタビュー

      今日の中国に関する素朴な疑問に、矢吹さんが答えます。 聞き手は山下茂さんです。 なおこのインタビューは『チャイナウオッチ 矢吹晋著作選集 第五巻 電脳社会主義』別冊付録として制作されました。 中国は経済成長を続けられるか ――これからの中国、大丈夫か? まず、そのことをお聞きしたいと思います。アメリカを中心とする経済封じ込め、とくに半導体関係の禁輸措置の影響をどうみるか。国内的にも成長が減速し、労働力不足・高齢化という厳しい状況を迎えています。果たして中国は持ちこたえるこ

      • 私たちはこのように生きていますーー『ウクライナの真実 国家の現況2010』日本版への序 特別公開

        親愛なる日本の読者の皆さんへ  今、手にされているこの本は、極めて簡略化した形ではありますが、私どもの国ウクライナについて十分に豊かな情報を集めたものです。この本はウクライナのさまざまなことについて分かりやすく書いてあります。  この本を読みながら、お国の状況とどこか似たところを見つけられるかも知れません。この本を読まれるということは、自国の文化や伝統を愛しておられるということです。そんな皆さんなら、この複雑な相互依存の世界の中で自身のアイデンティティを保ちつつ、経済発展に

        • チェーホフの百万本のバラの花

          サハリン国大 エレーナ・イコンニコヴァ 去年11月に、北大名誉教授クドウ・マサヒロの、サハリンの印象をもとに書かれた本『チェーホフの山』が出版された。 現代の読者にとって教授は、アンナ・アフマートヴァ、ヴェリミール・フレーブニコフ、ボリース・パステルナークその他のロシア作家の翻訳者としてばかりでなく、サハリンを訪れて島の文化と歴史に惹かれた独特の詩人、作家として知られている。リリカルな物語中篇小説の形で書かれたこの新著は、その哲学的内容に特徴がある。サハリン人はチェーホフ

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        • 菅寿美 チェコ文学 オタ・パヴェル
          31本
        • 編集部より
          3本
        • 栗原俊秀 移民をめぐる文学
          8本
        • 工藤正廣 ロシア・東北
          5本
        • 岩田道夫の世界
          1本
        • 関口時正 ポーランド
          1本

        記事

          31. ヴィエラの子供たち、ヤン・ペトル・イジー(名前)

          菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者) さて、表題のヴィエラとはオタの妻である。妻の子供たちなら夫であるオタの子供でもあるだろう? といぶかしまれるかもしれないが、ここには微妙な事情がある。 息子のヤン、ペトル、イルカもぼくの隣に座り、ジーゼクを釣る。 (「来いよ、入れ食いだぞ!」より、p.147) オタは三人の息子たちを「ヤン・ペトル・イルカ」と呼んでいる。ここで三男の呼び方に注意していただきたい。“イルカ”、とは男性名“イジー”の愛称だ。

          31. ヴィエラの子供たち、ヤン・ペトル・イジー(名前)

          30. チェコのおばーさん(名前)

          菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者) チェコで最も著名な女性作家、ボジェナ・ニェムツォヴァー(Božena Němcová、1820年生〜1862年没)の代表作に『バビチカ(Babička)』、すなわち『おばあさん』がある(より正しくは『おばあちゃん』か)。しかし、ここではその話はしない。 その美しい小川の付近に、かつて、実直な青年、ヤン・フラニェクがその妻とともに居を構えていた。(中略)バルコニーにいるあの女性は、ヤンの奥さんだ。凛としたフラニュコヴァ

          30. チェコのおばーさん(名前)

          29. ジーゼク、ジーゼク、あなたはなぜジーゼクなの?(魚)

          菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者) ぼくらはジーゼクという小魚をわなで捕まえていた。その小魚は、正式には、フロウゼク・ドゥロウホヴォウシーという。しかし、ぼくらはその小魚を「ジーゼクのフライ」と言うのと同じように、ジーゼクと呼んでいた。ジーゼクは見栄えのする小魚だ。二本の青みがかったドジョウひげをはやし、まるで大理石のようなまだら模様をしている。神様はその魚を創造するときに、存分に趣向を凝らしたようだ。けれども、そいつはだまされやすい、まぬけな魚だった。

          29. ジーゼク、ジーゼク、あなたはなぜジーゼクなの?(魚)

          28. マジパンの祭り(文化)

          菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者) それは、年に一度のマジパンの祭りのように、年に一度あるだけだった。                                                        (「金のウナギ」より、p.177) マジパン(marcipán)とは、アーモンドの粉に砂糖を混ぜて練ったペーストあるいはそれから作られるお菓子のことを指す。アーモンドが主原料だが、炒ったアーモンドの香ばしい香りではなく、ビターアーモンド

          28. マジパンの祭り(文化)

          27. 燻製ウナギ(食べ物)

          菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者) 「燻製ウナギは最高にいいぞ。それをおまえ、年がら年中食えるんだぜ」 (「おやじとウナギをもてなしたお話」より、p.27) おやじは、かつて、こんなことを思い描いていた。一度にたくさんのウナギを手に入れたなら、肉屋のフランツィ・ヤノウフのところへ行って、白い花をつけているハリエンジュとスモモの枝にトショウの実を加えたもので、燻製にしてくれるよう頼むのだ。(「金のウナギ」より、p.176) ヨーロッパでは、燻製ウナギ(

          27. 燻製ウナギ(食べ物)

          26. かぐわしきスリヴォヴィツエ(酒)

          菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者) スリヴォヴィツェ(slivovice)はスモモの実(シュヴェストゥカ、švestka)から作られる蒸留酒である。チェコの代表的な蒸留酒のひとつだが、スモモの蒸留酒自体は、チェコのみならず、中・東欧の多くの国々で造られ、スリヴォヴィツ、スリヴォヴィツァなどと類似の名前で呼ばれている。スモモ(プラム)の蒸留酒なので、「プラム・ブランデー」とも呼ばれる。 (スリヴォヴィツェ) このスリヴォヴィツェ、「プラムのお酒」という

          26. かぐわしきスリヴォヴィツエ(酒)

          移民をめぐる文学 第7回

          栗原俊秀 (この連載は、2016年に東京の4書店で実施された「移民をめぐる文学フェア」を、web上で再現したものです。詳しくは「はじめに」をお読みください) 10. タハール・ベン・ジェルーン『娘に語る人種差別』松葉祥一訳、青土社、2007年 モロッコ生まれのフランス語作家が、10歳の娘と対話する形式で綴った作品です。著者は娘との会話のなかで、人種差別の普遍性を強調します。「人種差別は、人間が住んでいるところならどこにでもある。人種差別は、人間の歴史の一部分をなしている

          移民をめぐる文学 第7回

          25. ムリーノメルかスホメルか(チェコ語)

          菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者)   チェコ語は日本人にとって、最も習得しにくい言語だと言われることがある。何をもって一番とするかでその順位は変わってくるだろうが、日本人にとってスラブ諸語(ロシア語やポーランド語、ブルガリア語などなど)学習にとっつきにくさがあるのは確かだろう。  それでは何が難しいのか、と問われると、多くの人が、複雑怪奇な名詞の格変化だと悲鳴をあげる。チェコ語の名詞は、単数形で7つ、複数形で7つの計14の格に変化する。格変化とは、

          25. ムリーノメルかスホメルか(チェコ語)

          24. 深紅のグリオトカ(酒)

          菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者) 「おやじは腰かけ、グリオトカの大きなグラスを注文した。それは、おやじがちょくちょく飲むことのできる、唯一のアルコールであった。おやじがそれを好んでいたのは、一つにはそれがおしゃぶり飴のように甘いからであり、そしてもう一つには、それが彼に、生まれ故郷であるブシュチェフラットの町の学校裏にあったサクランボ果樹園を思い起こさせるからだった」 (「プンプルデントリフ」より、p.132) グリオトカ(griotka)とはサクラ

          24. 深紅のグリオトカ(酒)

          23. 70センチメートル未満はつり上げ禁止!?(魚)

          菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者) プラハを旅行したとき、書店で魚のポケット図鑑を買った。魚の名前と顔とをきちんと確認したかったからだ。チェコの河川や湖にいる淡水魚のなかには、日本の魚と似たものもいる。図鑑の種名を見ると、大まかな分類上は、日本産の魚と同じものものもいる。だが、よくよく見ると、顔つきや雰囲気がなんだか違う。全体的なバランスに違和感というか、よそよそしいものを感じる。「だってわたしはチェコの魚ですから」とつんとそっぽを向かれているような気持

          23. 70センチメートル未満はつり上げ禁止!?(魚)

          22. ロフリークについて(食べ物)

          菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者) ロフリーク(rohlík)はチェコでもっとも親しまれているパンだろう。長ひょろいロールパンとでも言えばよいだろうか、淡いきつね色の角(つの)形をした、むっちりとした食感のパンである。スーパーではパンのコーナーの一隅で無造作に山積みにされており、一本10円程度、若いお母さんが未精算のものを幼児に食べさせながら「これもお願い」とレジを通過しているのをしばしば目にした。プラハでは、屋台で、ロフリークにソーセージを突き刺した(

          22. ロフリークについて(食べ物)

          21. ハガツオってどんな魚?(魚)

          菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者) さらにほぼ一時間南に向かっていたとき、ぼくらはハガツオを発見した。ものすごい数のカモメの群れだ。ぼくらが近づくと、水面が沸騰しているかのように激しく泡立っているのがわかった。その水と泡とが混ざり合ったところから空中へと、小さな銀の魚が、そしてハガツオの鋼の体が跳び出し、カモメが舞っていた。(「ハガツオ」より、p.124) 日本の初夏の味覚のひとつに、初ガツオがある。どの時期が最も美味なカツオであるかはさておき、カツオ

          21. ハガツオってどんな魚?(魚)