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ちょいちょい書くかもしれない日記(行く末)

仕事帰りに、母が暮らす施設に立ち寄った。
冬の間は感染症を警戒して食堂での面会だったけれど、今回は、居室に通された。
前はなかった、歩行用のバーが置かれている。
リハビリに使うものだろう。
母は、先月会ったときより意識が混乱しているようだった。
日によって、波があるのだと思う。
私がいた30分ほどのあいだに、「寝るわ」「もう起きないと」を10回以上繰り返し、そのたびスリッパを脱いだり履いたりした。
さっき食べたばかりのはずの夕飯をすっかり忘れ、おなかが空いたと言ったりもしていた。
取り繕いが上手いので、なんとなく話を合わせてくるけれど、私のこともきちんと認識できていないようだ。
先月はまあまあ大丈夫だったんだけどなー。
少し痩せたようでもあるし、手が酷く震えてボタンが留められなくなっている。
許可をもらって桜餅を持ってきたよと言ったら、「ちょうだい!」とやけに強い調子で要求し、むさぼるように食べた。
そんな鬼気迫る食べ方をする人ではなかったので、ちと戸惑った。
「あなたの分はあるの?」と聞いてくれるところは、以前の母と同じだったけれど。
「もう行くね」と言ったら、「猫たち待ってるものね。お仕事頑張って」と笑った。
猫のことは覚えているのだな。
まだ母が実家にいた頃、私が夕食を作りに通い、一緒に食べ、また自分の家に戻るとき、いつもそう言って見送ってくれた。
あの頃のことは、少し頭に残っているのか。
入居時から、私のブラシを借りっぱなしなことも覚えていた。
新しいことは片っ端から忘れると聞いていたけれど、そうでもない。
なにを忘れてなにを覚えているのか、謎が深い。

部屋を出てから、介護士さんと少し話した。
車椅子から立って、やたらに歩き回るようになったので、気をつけてはいるけれど転倒リスクは多少覚悟してくれと言われた。
両足首が変形していて痛みが強く、歩行にかなり困難を来していた母なのに。
おそらく、痛みを感じる能力が落ちてきているのだろう。
トイレでのささやかな奇癖についても、情報を共有する。
車に戻ると、どっと疲れが押し寄せてきた。
私のことを普段はすっかり忘れているのも、痛みをあまり感じなくなっているのも、母にとっては幸いなのかもしれない。
でも、ふと考えてしまう。
同じ病にほぼ同時に倒れた父は、好き放題にワガママを言い、面倒くさい用事を全部放り出して、いかにも父らしく勝手気ままに死んだ。
母は、命を長らえつつも、少しずつ、かつての母とは違う、不思議な生き物になっていく。
どっちがいいも悪いもないけれど、共に色々なことを経験し、問題を乗り越えてきた夫婦が、突然、こんなにあっさり別々の道を行くのか。
なんだか、茫洋とした気持ちで帰途についた。

阪神百貨店にたまに入荷する饅頭を買ってきたので、夕食の後に食べた。
父がゴルフの帰りによく買ってきた、こしあんがしみじみと旨い、でも全く日持ちがしない、昔のままの饅頭だ。
奪い合う必要はない。全部独り占め。
嬉しいけれど、少し寂しくもある。

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椹野道流
こんなご時世なのでお気遣いなく、気楽に楽しんでいってください。でも、もしいただけてしまった場合は、猫と私のおやつが増えます。