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たまに書く日記② 発芽するものたち
買った野菜を使い忘れることがある。
日持ちのしない葉ものは、すぐ下処理するから大丈夫。
問題は、急ぎでないもの……芋類や土生姜の類だ。
そのうち使うだろうから買っておこう。
そんな軽い気持ちで買い込んで、サラリと忘れてしまう。
何十年も執念深く覚えていることが山ほどあるのに、なんでや。
食べ物を粗末にすんな。
そう自戒しても、すぐ忘れる。
野菜が私に忘却の呪いをかけているのかもしれない。芽吹くための時間を稼ぐために。
先日、「あ、よかった、あったのね」と喜びながら使おうと思った土生姜が、さりげなく芽を出していた。
たぶん二週間くらい前に買って、本気で存在を忘れていたやつだ。
見た瞬間、「かわいい……!」と言ってしまった。
生えたというより、宇宙船が小さな星に降り立ったようで、「着陸成功おめでとう、よかったな!」と思ったけれど、特に何もよくはない。
というか、健気すぎて使いづらい。
その数日後、今度は山芋がやらかしていた。
いや、やらかしたのは私だ。
お好み焼きをしようと思って買い込んだのに、焼きそばを作ってしまった。
おかげで活躍の機会を得られなかった山芋は、暇に飽かして発芽しただけでなく、既に小さな芋を二つも作りつつあった。
感心した私は、それを母に見せた。
一緒に「凄いね!」と笑ってもらおうと思ったのだ。
しかし母は結構な勢いで怒った。
「可哀想でしょう! 今すぐ埋めてあげなさい!」
それを聞いた途端、物凄いデジャヴが発生した。
かつて職場でいただきもののメロンを食べたあと、流しの掃除を怠って、種をいくつも発芽させてしまったことがある。 そのときも、「すげー!」を分かち合おうとして見せた上司に、めちゃくちゃ怒られた。
普段、そこそこ温厚であろうと努めているはずの人が、
「可哀想やろ! 今すぐ植えたらんかい!!」
と、瞬間湯沸かし器みたいにキレ散らかしたのだ。
え、何?
発芽って、ある種の人には強烈な母性本能を呼び覚まされる現象なの?
そんな怒る?
謎が深い。
あと、怒られるのがいつも私なのも、腑に落ちない。
私、別に発芽責任者ちゃうぞ。
とはいえまあ、確かに切り捨てるには忍びない。
あのときも首を捻りながら、試薬が入っていた発泡スチロールの箱にそのへんの土を入れて、小さなメロンの「苗」を植えた。
今回も、山芋は庭に、土生姜はちっちゃい鉢に植えた。
土生姜は、植えてもとてもかわいい。
不思議なご縁だと思って、そこそこ大事に育てることにした。
そういえば、あの実験室で育ててたメロン、最終的にはどうなったんだっけ。
食べた記憶がないから、枯れたのかもしれない。
土生姜は育つといいな。
ついでに、うちの猫たちのために、猫草も育て始めた。
キットになっていて、紙パックに水を入れるだけで、中に仕込まれた種がみょんみょん発芽する。
なんであっても芽吹きが嬉しいのは、育てたい衝動のせいなのか、収穫の喜びを予感するからなのか。
それはわからないけれど、また椎茸でも部屋で生やそうかな。
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