ありがとう、さようなら
冒頭の写真は
高校時代に使用していた英和辞典です。
入学前、名古屋市栄の古本屋で購入しました。
当時、我が家は父が出て行き
極貧状態でした。
本当は高校など行ける経済的余裕など
なかったと思います。
高校は義務教育ではありません。
教科書も全てお金が掛かります。
その上、英和辞典、和英辞典
漢和辞典、古語辞書…
高価なものばかりが必要です。
飛ぶように出ていくお金。
古本屋で調達できるものは古本でいいと思い
いつかテレビで見た事のある古本屋を
訪れました。
その古本屋は、今時の古本屋ではなく
昔ながらの個人経営の店で
高価な古本が沢山並んでいました。
ここには私が欲しい辞書などないと
半ば諦めながらも、一通り店を見て出ようと
店内を歩いていると、そんな古本達の片隅で
私を待っていてくれたかのような
この辞書に出会ったのです。
状態はきれいで新品に近く
凛として古本達と一緒に並んでいました。
私は自分の小遣いでこの辞書を購入しました。
同級生達は一から十まで親に準備してもらう中
私は学校の物を、なけなしの小遣いから購入する、それは当時の私にとって惨めな事でした。
しかし、私はみんなより大人なのだと
自分に言い聞かせ、平静を保ちました。
1978年春の出来事です。
もう40年以上も前の出来事なのに、
辞書はとっくに役目を引退しているのに
結婚しても、引っ越ししても
私はこの辞書を捨てられませんでした。
決していい思い出ではないけど
私の事を古本屋で待っていて
私と一緒に高校生活を送ってくれた辞書。
手離す事は見捨てる事だと思っていたのです。
でも家の本棚の一番下で埃を被っている
辞書を見た時、私はこの辞書に対して
手離すよりもっと酷い事を
していたのだと気付き
この辞書とお別れする事を決めました。
形はなくなってしまうけど、
あの時の惨めな気持ちと
古本屋で辞書と出会った時の喜びは
いつまでも心の中で消えません。
辞書にありがとうと伝え
お別れをします。
ありがとう。
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