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北ミチノ
2024年2月21日 17:19
桜花の褥「——、……見事ですね」 庭に向けて開け放った障子、その先に広がる光景を前に、高城は、ほう、と吐息をこぼした。言葉を失うほど美しいとはこういうことかと、感に打たれて立ち尽くす。「だろう? ああ、今年もよく咲いているな」 横にいる綾瀬もほほ笑み、同じように、目の前で咲き誇る桜の古木を眺める。 今が盛りとばかりに薄桃色の花をつけたその木は、細枝を重くしならせ、白い小さな花
2024年2月21日 17:21
「酔いましたか」「……酔ってなどいない」 綾瀬はかぶりを振ってみせるが、呂律も少々怪しくなっている。酔っ払いの手本のようなその反応に、正直に苦笑が込み上げてきた。手酌だったので気がつかなかったが、徳利はすでに空になっているようだ。「少し、横になりますか?」「なぜだ? 酔ってはいないと言ったろうが……まったく……」 卓を回って相手の横に膝をつくと、綾瀬はむうっと口許を尖らせて反論する。さら